昭和二六年改正商法施行当時までは、証券取引界において、増資新株式証拠金領収書に白紙委任状の添付されたものは株式類似の証券的作用を営んでいたのであり、該領収書は刑法第一六二条の有価証券であると解するを相当とする。
昭和二六年の改正商法施行以前において増資新株式証拠金領収書を偽造する所為は刑法第一六二条の有価証券偽造罪を構成するか。
刑法162条
判旨
刑法上の有価証券とは、証券上の権利行使や移転に占有を要するものをいい、取引慣習上その権利が証券に表彰されているものと同様に取引の客体とされているものを含む。増資新株式申込証拠金領収書は、株券類似の証券的作用を営むものとして、偽造有価証券行使罪の客体に当たると解するのが相当である。
問題の所在(論点)
刑法162条・163条にいう「有価証券」の定義、および「増資新株式申込証拠金領収書」が同罪の客体に含まれるか否かが問題となる。
規範
刑法上の有価証券とは、証券に表示されている権利の行使または移転に、通常その証券の占有を必要とするものを指す。その趣旨は、文書偽造罪よりも高度の信用性を担保し、第三者の誤信による不測の損害を防止することにある。したがって、証券上の権利が記載内容から必ずしも明瞭でない場合であっても、取引上の慣習と相まって、その権利が証券に表彰されているものと同様に取引の客体とされているものは、刑法上の有価証券に該当する。
重要事実
被告人は、偽造された増資新株式申込証拠金領収書を入手した。被告人は、当該領収書が偽造であることを知りながら、借入金の担保として利用しようと企て、昭和25年7月にこれを実際に行使した。当時(昭和26年商法改正前)、証券取引界では、当該領収書に白紙委任状を添付して売買や担保の目的に利用する取引慣行が存在していた。
事件番号: 昭和27(あ)5985 / 裁判年月日: 昭和35年2月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法上の有価証券とは、証券に表示された権利の行使・移転に証券の占有を要するものをいい、取引慣習上、証券に権利が表彰されているものとして取引の客体とされているものはこれに該当する。増資新株式申込証拠金領収証は、白紙委任状を添付して売買や担保に供される取引慣行があるため、刑法上の有価証券にあたる。 第…
あてはめ
本件領収書は、当時の取引慣行において白紙委任状を添付することで売買や担保の目的に供されていた。このような実態に鑑みれば、当該領収書はその内容および取引慣行に照らし、事実上株券に類似する証券的作用を営むものといえる。したがって、証券の占有が権利の移転等に重要な役割を果たしており、偽造による第三者の不測の損害を防止すべき必要性が高いため、刑法上の有価証券に当たると解される。これを情を知って担保として差し入れた被告人の行為は、偽造有価証券行使罪を構成する。
結論
増資新株式申込証拠金領収書は刑法上の有価証券に該当し、被告人には偽造有価証券行使罪(刑法163条)が成立する。
実務上の射程
有価証券の定義について「証券の占有を必要とするもの」という伝統的定義を維持しつつ、取引の流通性や信用保護の必要性から、取引慣行を重視して客体を柔軟に画定する判断枠組みを示したものである。答案上は、本罪の保護法益である公共の信用(および二次的な取引安全)から説き起こし、実質的な証券的作用の有無を論証する際の指針となる。
事件番号: 昭和27(あ)4689 / 裁判年月日: 昭和34年7月14日 / 結論: 棄却
本件A不動産株式会社増資新株式申込証拠金領収書は刑法一六二条所定の有価証券に当たる。
事件番号: 昭和31(あ)2114 / 裁判年月日: 昭和31年12月27日 / 結論: 棄却
いわゆる無記名定期預金証書を偽造する所為は、私文書偽造の罪にあたる。
事件番号: 昭和35(あ)493 / 裁判年月日: 昭和35年6月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】有価証券偽造罪及び同虚偽記入罪の成立には、その名義の被冒用者が実在人であることを要しない。本判決は、被冒用者の実在性を要件としていた大審院時代の判例は既に変更されていることを確認したものである。 第1 事案の概要:被告人両名が有価証券偽造罪乃至同虚偽記入罪に問われた事案。弁護人は、大審院の判例に基…