いわゆる無記名定期預金証書を偽造する所為は、私文書偽造の罪にあたる。
いわゆる無記名定期預金証書偽造の罪の適条。
刑法159条,刑法162条
判旨
無記名定期預金証書は、財産権が証券に化体され、その行使・譲渡に証券の占有を必要とするものではないため、刑法上の有価証券には該当せず、私文書に当たると解するのが相当である。
問題の所在(論点)
権利者の氏名が空欄となっている無記名定期預金証書が、刑法162条の「有価証券」に該当するか、あるいは刑法159条の「私文書」に該当するか。
規範
刑法上の「有価証券」とは、財産権が証券に化体され、その権利の行使または譲渡に証券の占有を必要とするものをいう。これに該当しない証書は、私文書として取り扱うべきである。
重要事実
被告人らは、定期預金証書の用紙を用い、宛名(預金者名)の部分を空欄とした「無記名定期預金証書」を作成した。当該証書の裏面には、銀行の承諾なき譲渡・質入れを禁ずる旨、取引には届出印が必要である旨、および証書紛失時には保証書をもって代わり証書の交付や支払を行う旨の約定文書が印刷されていた。一審・二審は、これを有価証券ではなく私文書として処断した。
あてはめ
事件番号: 昭和27(あ)4689 / 裁判年月日: 昭和34年7月14日 / 結論: 棄却
本件A不動産株式会社増資新株式申込証拠金領収書は刑法一六二条所定の有価証券に当たる。
本件証書は、裏面の約定により銀行の承諾なしに譲渡や質入れができないとされており、権利が証券に完全に化体されているとは認められない。また、紛失時には保証書をもって元利金の支払い等が可能であることから、権利の行使に証券の占有が絶対的に必要であるともいえない。したがって、本件証書は財産権が証券に化体し、その行使・譲渡に占有を要する有価証券とは認められない。
結論
本件無記名定期預金証書は有価証券には当たらず、これを作成する行為には私文書偽造罪(刑法159条1項)および同行使罪が成立する。
実務上の射程
有価証券と私文書の区別に関するリーディングケースである。証券の文言のみならず、裏面の約定や紛失時の救済措置等を踏まえ、権利の「化体」と「占有の必要性」から実質的に判断する枠組みは、現代の預金証書等の該当性判断においても極めて重要な指標となる。
事件番号: 昭和31(あ)2893 / 裁判年月日: 昭和34年12月4日 / 結論: 棄却
昭和二六年改正商法施行当時までは、証券取引界において、増資新株式証拠金領収書に白紙委任状の添付されたものは株式類似の証券的作用を営んでいたのであり、該領収書は刑法第一六二条の有価証券であると解するを相当とする。
事件番号: 昭和28(あ)1588 / 裁判年月日: 昭和30年6月29日 / 結論: 棄却
有価証券偽造罪を判示するにあたつては、いかなる名義人のいかなる内容の有価証券であるかがわかる程度に判示するを以て足り、商法上の手形要件を全部表示するの必要はない。