一 刑法第一六二条にいわゆる「有価証券」とは財産上の権利が証券に表示され、その表示された権利の行使につきその証券の占有を必要とするものをいい、その証券が取引上流通性を有すると否とは必ずしも問わないものと解すべきである。 二 電車定期乗車券の偽造は刑法第一六二条第一項の有価証券偽造罪を構成する。
一 刑法第一六二条にいわゆる「有価証券」の意義 二 電車定期乗車券の偽造と有価証券偽造罪
刑法162条1項
判旨
刑法上の有価証券とは、財産上の権利が証券に表示され、その行使に証券の占有を必要とするものをいい、取引上の流通性の有無は問わない。したがって、定期乗車券は刑法上の有価証券に該当する。
問題の所在(論点)
刑法162条1項に規定される「有価証券」の定義、特に取引上の流通性が必須要件となるか、および定期乗車券がこれに該当するか。
規範
刑法における「有価証券」とは、①財産上の権利が証券に表示されていること、②その表示された財産上の権利の行使につき、その証券の占有を必要とすることを要する。なお、当該証券が取引上流通性を有するか否かは、刑法上の有価証券の概念に含まれるものではない。
重要事実
被告人は定期乗車券を偽造等したとして有価証券偽造等の罪に問われた。第一審判決が定期乗車券を「有価証券」と解したことに対し、弁護人は法令違反等を理由に上告した。定期乗車券は特定の個人が一定期間、特定の区間の鉄道等を利用できる権利を示す証券であり、利用時には現物の提示(占有)が必要とされるが、記名式であり一般に流通する性質のものではない。
事件番号: 昭和35(あ)493 / 裁判年月日: 昭和35年6月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】有価証券偽造罪及び同虚偽記入罪の成立には、その名義の被冒用者が実在人であることを要しない。本判決は、被冒用者の実在性を要件としていた大審院時代の判例は既に変更されていることを確認したものである。 第1 事案の概要:被告人両名が有価証券偽造罪乃至同虚偽記入罪に問われた事案。弁護人は、大審院の判例に基…
あてはめ
定期乗車券には鉄道利用という「財産上の権利」が体現されており、改札時等にこれを提示して「占有」を示さなければその権利を行使できない。このように権利の表示と占有の必要性が認められる以上、上記規範の①②を充足する。証券に流通性がないとしても、刑法が有価証券偽造等を処罰する趣旨は証券に対する社会的信頼を保護することにあるため、必ずしも流通性は必要とされない。したがって、定期乗車券は有価証券にあたると評価される。
結論
定期乗車券は刑法上の有価証券に該当する。したがって、第一審の判断は正当であり、上告を棄却する。
実務上の射程
有価証券偽造罪(162条)の客体に関するリーディングケースである。流通性不要説を明示した点に意義があり、テレホンカードやプリペイドカード等の準有価証券(163条)の議論とも関連する。答案上は、流通性のない証券の有価証券該当性を論じる際の定義として必ず引用すべき判例である。
事件番号: 昭和31(あ)2893 / 裁判年月日: 昭和34年12月4日 / 結論: 棄却
昭和二六年改正商法施行当時までは、証券取引界において、増資新株式証拠金領収書に白紙委任状の添付されたものは株式類似の証券的作用を営んでいたのであり、該領収書は刑法第一六二条の有価証券であると解するを相当とする。
事件番号: 昭和27(あ)4689 / 裁判年月日: 昭和34年7月14日 / 結論: 棄却
本件A不動産株式会社増資新株式申込証拠金領収書は刑法一六二条所定の有価証券に当たる。
事件番号: 昭和31(あ)2114 / 裁判年月日: 昭和31年12月27日 / 結論: 棄却
いわゆる無記名定期預金証書を偽造する所為は、私文書偽造の罪にあたる。
事件番号: 昭和27(あ)5985 / 裁判年月日: 昭和35年2月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法上の有価証券とは、証券に表示された権利の行使・移転に証券の占有を要するものをいい、取引慣習上、証券に権利が表彰されているものとして取引の客体とされているものはこれに該当する。増資新株式申込証拠金領収証は、白紙委任状を添付して売買や担保に供される取引慣行があるため、刑法上の有価証券にあたる。 第…