判旨
有印私文書偽造・同行使罪の共謀が認められるためには、単に虚偽内容の文書を作成して資金を借り受ける意思や共謀があるだけでは足りず、特定の他人の名義を冒用して文書を偽造し、これを行使することについての具体的な認識ないし共謀が必要である。
問題の所在(論点)
虚偽の借入れを目的とする共謀がある場合において、その手段として「特定の他人の名義を冒用する」という偽造の実行行為についても共謀があったと認められるための要件が問題となる。
規範
有印私文書偽造罪(刑法159条1項)および同行使罪(同法161条1項)の共謀共同正犯が成立するためには、単に内容が虚偽の文書を作成して目的を達しようとする意思(虚偽文書作成の意図)があるだけでは不十分であり、当該文書の作成にあたって「他人の名義を冒用する」という偽造の態様およびその行使について、共犯者間での具体的な認識ないし意思の合致(共謀)があることを要する。
重要事実
被告人Aは、共犯者BおよびCと、架空の溜池改修工事等を名目として内容虚偽の年賦償還金連帯借用証書を作成し、これを農業協同組合に差し入れて資金を借り受けようと計画した。この際、借用証書の借主欄に、DおよびEという特定の他人の氏名を勝手に記入し、その印鑑を冒捺してこれら他人の名義を冒用した有印私文書を偽造・行使したとされる事案である。
あてはめ
被告人には、架空の工事を名目として内容虚偽の借用証書を作成し資金を借り受けるという包括的な意思や共謀は認められる。しかし、その具体的な手法として、DおよびEという特定の個人名義を無断で使用(冒用)して借用証書を偽造し、これを行使することについてまで、被告人が認識していた、あるいは共犯者間で意思の疎通を図っていたと認めるには証拠が不十分である。したがって、偽造・同行使の構成要件的行為についての共謀を認めることはできない。
結論
特定の他人の名義を冒用して文書を偽造・行使することについての認識ないし共謀を欠く以上、有印私文書偽造・同行使罪の共謀共同正犯は成立しない。
事件番号: 昭和41(あ)1835 / 裁判年月日: 昭和42年11月28日 / 結論: 棄却
数人の代表取締役が共同して会社を代表する定めがある場合に、その一人が、他の代表取締役の署名もしくは印章を冒用して、共同代表の形で会社名義の文書を作成する行為は、文書偽造罪を構成する。
実務上の射程
共謀の対象は構成要件に該当する事実でなければならないことを示した。詐欺的な目的(内容虚偽)の共謀があるからといって、当然にその手段である偽造の共謀まで推定されるわけではないため、実務上は「名義の冒用」という点にフォーカスした立証・反論が必要となる。答案上は、共謀の成立範囲を厳格に画定する際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和40(あ)1717 / 裁判年月日: 昭和40年2月24日 / 結論: 棄却
共謀共同正犯における共謀の事実は罪となるべき事実であるから、証拠によつてその内容が証明されなければならないが、右共謀の内容が証拠によつて認定できる以上、判決文には単に「共謀の上」と判示しても違法とはいえないことは、当裁判所の判例−昭和二九年(あ)第一〇五六号、同三三年五月二八日大法廷判決、刑集一二巻八号一七一九頁−とす…
事件番号: 平成9(あ)1227 / 裁判年月日: 平成11年12月20日 / 結論: 棄却
虚偽の氏名等を記載した履歴書及び雇用契約書等を作成行使した行為は、たとえ自己の顔写真がはり付けられ、あるいは各文書から生ずる責任を免れようとする意思を有していなかったとしても、有印私文書偽造、同行使罪に当たる。
事件番号: 昭和41(あ)2732 / 裁判年月日: 昭和42年8月28日 / 結論: 棄却
甲から金員を騙取するため、乙名義の偽造の委任状等を登録官吏に提出し、乙の不動産の登記簿の原本に抵当権が設定された旨の不実の記載をさせて、これを行使するとともに、甲にその登録済権利証を示して、抵当権設定登録を経由した旨誤信させ、同人から借用金名下に金員を騙取したときは、公正証書原本不実記載罪とその行使罪と詐欺罪との牽連犯…
事件番号: 昭和37(あ)208 / 裁判年月日: 昭和38年5月30日 / 結論: 棄却
行使の目的をもつて、振出人欄に他人名義を冒用して約束手形を偽造し、かつその裏書人欄に他人名義を冒用して虚偽の記入をし、その表裏の記入を相合して裏書担保のある約束手形を作成したときは、これらの行為は包括的に刑法第一六二条第一項の有価証券偽造の一罪を構成する。