行使の目的をもつて、振出人欄に他人名義を冒用して約束手形を偽造し、かつその裏書人欄に他人名義を冒用して虚偽の記入をし、その表裏の記入を相合して裏書担保のある約束手形を作成したときは、これらの行為は包括的に刑法第一六二条第一項の有価証券偽造の一罪を構成する。
一個の約束手形の振出人欄の偽造と裏書人欄の虚偽記入との罪数の関係。
刑法162条1項,刑法162条2項
判旨
行使の目的で約束手形の振出人欄に他人名義を冒用して偽造し、かつ裏書人欄にも他人名義を冒用して虚偽の記入をした場合、これらを包括して有価証券偽造罪の一罪が成立する。
問題の所在(論点)
行使の目的で、約束手形の振出人欄を偽造するとともに、裏書人欄に虚偽の記入を行った場合、有価証券偽造罪(刑法162条1項)と有価証券虚偽記入罪(同2項)のいずれが成立するか。両罪の関係および罪数が問題となる。
規範
刑法162条2項の有価証券虚偽記入罪は、同条1項の偽造・変造罪に対して補充的性質を有する。したがって、同一の有価証券上に偽造行為と虚偽記入行為が併存し、それらが相まって一つの有価証券を形成している場合には、これらの行為を包括的に観察し、有価証券偽造罪の一罪として評価すべきである。
重要事実
被告人は、行使の目的をもって、約束手形の振出人欄に他人の名義を無断で冒用して手形を偽造した。さらに、同手形の裏書人欄においても他人の名義を冒用して虚偽の記入を行い、表裏の記入が一体となって裏書担保のある約束手形を作成した。
事件番号: 昭和27(あ)5032 / 裁判年月日: 昭和28年9月17日 / 結論: 棄却
引受の記載が振出の記載に先立つてなされた場合であつても、結局正当に振出された為替手形に他人の署名を冐用して虚偽の引受に関する記載をなしたことに帰するのであるから有価証券虚偽記入罪に問擬した原判示は正当である。
あてはめ
本件において、被告人は手形の振出という有価証券の本質的部分を偽造しており、これに加えて裏書という手形上の権利義務に影響を与える記入を虚偽に行っている。これらの行為は、裏書担保のある一個の約束手形を完成させるという単一の目的のもとで行われており、その態様は密接に関連している。虚偽記入罪は偽造罪に対して補充的な関係に立つものであるから、本件のように振出人名義の冒用(偽造)と裏書人名義の冒用(虚偽記入)が一体となって一個の手形が作成された場合は、包括して偽造罪として処断するのが相当である。
結論
有価証券偽造罪の一罪が成立する。
実務上の射程
同一の証券上に複数の偽造・虚偽記入行為がある場合の罪数処理を示す。特に、振出(作成)自体が偽造である場合には、その後の付随的な虚偽記入(裏書等)は偽造罪に吸収・包括されるという実務上の取り扱いを裏付ける射程を有する。
事件番号: 昭和28(あ)5589 / 裁判年月日: 昭和32年1月17日 / 結論: 棄却
刑法第一六二条第二項にいわゆる「虚偽ノ記入」とは、既成の有価証券に対すると否とを問わず、有価証券に真実に反する記載をするすべての行為をいう。
事件番号: 昭和28(あ)1588 / 裁判年月日: 昭和30年6月29日 / 結論: 棄却
有価証券偽造罪を判示するにあたつては、いかなる名義人のいかなる内容の有価証券であるかがわかる程度に判示するを以て足り、商法上の手形要件を全部表示するの必要はない。
事件番号: 昭和28(あ)4807 / 裁判年月日: 昭和29年4月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】複数の約束手形を偽造した場合の罪数について、作成された通数ごとに有印私文書偽造罪(刑法159条1項)が成立することを明示した。 第1 事案の概要:被告人は、特定の団体の会長名義を冒用し、同一の日付が記載された約束手形5枚に対し、それぞれ金額(300万円が1通、200万円が3通、100万円が1通)を…
事件番号: 昭和36(あ)572 / 裁判年月日: 昭和36年9月26日 / 結論: 棄却
行使の目的を以てほしいままに、他人振出名義の小切手の金額欄の数字を改ざんする行為は、有価証券の変造であつて、偽造ではない。