判旨
複数の約束手形を偽造した場合の罪数について、作成された通数ごとに有印私文書偽造罪(刑法159条1項)が成立することを明示した。
問題の所在(論点)
同一名義かつ同一日付の約束手形を複数枚作成した場合、偽造罪の罪数はどのように算定されるか。一罪となるのか、あるいは作成された通数ごとに数罪が成立するのか。
規範
文書偽造罪の罪数は、作成された文書の通数を基準として決定される。同一名義、同一の日時であっても、物理的に独立した複数の文書が作成された場合には、その通数に応じた罪が成立する。
重要事実
被告人は、特定の団体の会長名義を冒用し、同一の日付が記載された約束手形5枚に対し、それぞれ金額(300万円が1通、200万円が3通、100万円が1通)を記載した上で押捺し、合計額面1000万円となる約束手形5通を順次作成した。
あてはめ
被告人は、1通で1000万円の約束手形を作成したのではなく、物理的に分かれた5枚の約束手形用紙に対し、それぞれ異なる金額を記載して順次作成している。このように、独立した手形という形式を整えた文書が5通存在し、それぞれが独立して流通し得る状態にある以上、各手形ごとに偽造行為が認められる。したがって、5通の偽造行為は包括的な一罪ではなく、5個の偽造罪を構成すると評価される。
結論
約束手形5通を偽造した行為については、5通それぞれの作成をもって5個の有印私文書偽造罪(刑法159条1項)が成立する。
実務上の射程
文書偽造罪の罪数算定に関する基本判例である。名義人が同一であっても、作成された文書が物理的に別個であり、独立した証明力を有する場合には通数ごとに罪が成立するという原則を、手形偽造の場面で確認している。答案上は、数個の文書を順次作成した事実があれば、本判例を根拠に通数分の罪が成立すると論じるべきである。
事件番号: 昭和27(れ)201 / 裁判年月日: 昭和28年3月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】複数の証明書を偽造した行為について、単一の犯意に基づく一連の動作とは認められない場合、各証明書の作成ごとに独立した偽造罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人は、人絹糸需要者割当証明書を複数枚にわたり偽造した。弁護人は、これらが単一の犯意の発現たる一連の動作によるものであり、一罪(または包括一罪)…
事件番号: 昭和37(あ)208 / 裁判年月日: 昭和38年5月30日 / 結論: 棄却
行使の目的をもつて、振出人欄に他人名義を冒用して約束手形を偽造し、かつその裏書人欄に他人名義を冒用して虚偽の記入をし、その表裏の記入を相合して裏書担保のある約束手形を作成したときは、これらの行為は包括的に刑法第一六二条第一項の有価証券偽造の一罪を構成する。
事件番号: 昭和27(あ)4689 / 裁判年月日: 昭和34年7月14日 / 結論: 棄却
本件A不動産株式会社増資新株式申込証拠金領収書は刑法一六二条所定の有価証券に当たる。
事件番号: 昭和28(あ)1588 / 裁判年月日: 昭和30年6月29日 / 結論: 棄却
有価証券偽造罪を判示するにあたつては、いかなる名義人のいかなる内容の有価証券であるかがわかる程度に判示するを以て足り、商法上の手形要件を全部表示するの必要はない。
事件番号: 昭和45(あ)1058 / 裁判年月日: 昭和45年10月22日 / 結論: 棄却
行使の目的をもつてほしいままに、他人振出名義の約束手形の金額欄の数字を改ざんする行為は、有価証券の変造であつて、偽造ではない。