行使の目的をもつてほしいままに、他人振出名義の約束手形の金額欄の数字を改ざんする行為は、有価証券の変造であつて、偽造ではない。
約束手形の金額を改ざんする行為は有価証券の偽造か変造か
刑法162条1項
判旨
他人名義の約束手形の金額欄に数字を書き加えて金額を改ざんする行為は、有価証券の「偽造」ではなく「変造」に該当する。もっとも、偽造と変造は同一条項(刑法162条1項)に規定され法定刑も同一であるため、この評価の誤りは判決に影響を及ぼさない。
問題の所在(論点)
他人名義の約束手形の金額欄を書き換えて増額させる行為が、刑法162条1項の「偽造」にあたるか、それとも「変造」にあたるか。
規範
有価証券変造罪(刑法162条1項)における「変造」とは、権限なく既存の真正な有価証券の内容に変更を加えることをいう。他人振出名義の約束手形において、その本質的部分である金額欄の記載を書き換える行為は、新たな証券を創作する「偽造」ではなく、既存の証券の非本質的内容(証券自体の同一性を損なわない範囲での内容変更)を改ざんする「変造」として評価される。
重要事実
被告人は、行使の目的をもって、既に他人が振り出した真正な約束手形の金額欄に記載されていた「拾八万円也」という字句の上部に、無断で「四」と書き加えた。これにより、当該手形をあたかも金額四八万円の約束手形であるかのように作り変え、これを行使した。
事件番号: 昭和36(あ)572 / 裁判年月日: 昭和36年9月26日 / 結論: 棄却
行使の目的を以てほしいままに、他人振出名義の小切手の金額欄の数字を改ざんする行為は、有価証券の変造であつて、偽造ではない。
あてはめ
本件では、被告人はゼロから手形を作成したのではなく、既に存在していた「拾八万円」という他人名義の真正な約束手形を利用している。この既存の手形に「四」の字を書き加えて「四八万円」とする行為は、既存の証券の記載内容に変更を加えるものといえる。したがって、これは証券を新たに作り出す「偽造」ではなく、既存の証券の内容を改ざんする「変造」に該当すると解される。
結論
被告人の行為は有価証券変造罪(および偽造有価証券等行使罪)を構成する。原判決が「偽造」とした点は法令の解釈を誤っているが、偽造と変造は刑法162条1項の同一条項に該当し、刑も同一であるため、結論において判決に影響はない。
実務上の射程
司法試験等の答案作成においては、偽造(作成権限のない者が名義を冒用して証券を作成すること)と変造(既存の真正な証券の内容を改ざんすること)の区別を正確に示す必要がある。特に手形の金額変更は典型的な「変造」事例として記憶すべきである。また、罪名が同一条項内である場合の「判決に影響を及ぼさない誤り」という論法も刑事訴訟法上の観点から参考になる。
事件番号: 平成2(あ)917 / 裁判年月日: 平成3年5月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】有価証券の記載内容に真正な権限なく変更を加え、その証券の証拠力を高める行為は、有価証券変造罪を構成する。また、変造された有価証券を他人に手渡す行為は、有価証券変造証券交付罪に該当する。 第1 事案の概要:被告人両名は、真正に発行された有価証券(具体的な種類は判決文からは不明。参照判例からはテレホン…
事件番号: 昭和59(あ)555 / 裁判年月日: 昭和61年6月27日 / 結論: 棄却
行使の目的をもつて、ほしいままに、営林署長の記名押印がある売買契約書の売買代金欄等の記載に改ざんを施すなどしたうえ、これを複写機械で複写する方法により、あたかも真正な右売買契約書を原形どおり正確に複写したかのような形式、外観を備えるコピーを作成した所為は、その改ざんが原本自体にされたのであれば未だ文書の変造の範ちゆうに…