甲から金員を騙取するため、乙名義の偽造の委任状等を登録官吏に提出し、乙の不動産の登記簿の原本に抵当権が設定された旨の不実の記載をさせて、これを行使するとともに、甲にその登録済権利証を示して、抵当権設定登録を経由した旨誤信させ、同人から借用金名下に金員を騙取したときは、公正証書原本不実記載罪とその行使罪と詐欺罪との牽連犯となる。
公正証書原本不実記載罪とその行使罪と詐欺罪との関係
刑法45条,刑法54条1項,刑法157条1項,刑法158条1項,刑法246条1項
判旨
金員を騙取する手段として、不実の抵当権設定登記を経由させた上で登記済権利証を示す行為は、公正証書原本不実記載罪および同行使罪と詐欺罪との間に罪質上の通例的な手段結果の関係が認められ、刑法54条1項後段の牽連犯に当たる。
問題の所在(論点)
金員を騙取する目的で行われた公正証書原本不実記載罪および同行使罪と、その後の詐欺罪との罪数関係が、併合罪(刑法45条)となるか、あるいは牽連犯(同54条1項後段)となるかが問題となる。
規範
刑法54条1項後段にいう「犯罪の手段……である行為が他の罪名に触れるとき」(牽連犯)とは、数個の罪が罪質上通例、手段と結果の関係にある場合をいう。この判断においては、行為の主観的な目的のみならず、客観的にみて当該犯罪の実行に通常伴う手段であるかという点から決すべきである。
重要事実
被告人は、Aから金員を騙取する目的で、他人の名義を冒用した委任状を偽造・行使して登記官に抵当権設定登記をさせ、不実の記載がなされた登記簿(公正証書原本)およびこれを行使させた。その上で、抵当権が設定されたことを証明する登記済権利証をAに示して誤信させ、借用金名目で現金70万円を騙取した。
事件番号: 昭和41(あ)2440 / 裁判年月日: 昭和42年6月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】私文書偽造罪、同行使罪および詐欺罪が順次に手段・結果の関係にある場合、これらは刑法54条1項後段により、一罪(牽連犯)として処断すべきである。 第1 事案の概要:被告人は、私文書を偽造し(私文書偽造罪)、これを行使して(同行使罪)、人を欺いて財物を交付させた(詐欺罪)。第一審判決は、私文書偽造罪と…
あてはめ
本件において、被告人はAを欺いて現金を交付させるために、その前提として虚偽の抵当権設定登記を了し、その登記済権利証を提示するという一連の行動をとっている。このような不実の登記およびその行使は、金員を騙取するという詐欺の目的を達するための「手段」として客観的にも通例認められる態様といえる。したがって、公正証書原本不実記載罪・同行使罪と詐欺罪との間には罪質上の通例的な手段結果の関係が認められる。
結論
公正証書原本不実記載罪および同行使罪と詐欺罪は、刑法54条1項後段の牽連犯に当たる。原判決が併合罪とした点は誤りであるが、他の罪との併合罪として処断した結果、刑期の範囲に影響はないため、判決に影響を及ぼす法例の誤りとはならない。
実務上の射程
詐欺罪における準備行為(不実登記等)が、後の詐欺の手段として不可欠かつ通例的なものである場合には牽連犯となることを示した。答案上は、科刑上一罪(牽連犯)として処理すべき典型例の一つとして活用できる。特に登記偽装を伴う詐欺事案において、併合罪としないよう注意が必要である。
事件番号: 昭和31(あ)438 / 裁判年月日: 昭和32年2月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公正証書原本不実記載罪において、所有権保存登記と抵当権設定登記に関する不実の記載は、それぞれ包括して一罪として処断することが認められる。また、起訴状記載の事実と変更後の事実に差異があっても、公訴事実の同一性を害しない限り、訴因の変更は適法である。 第1 事案の概要:被告人が、所有権保存登記および抵…
事件番号: 昭和39(あ)2465 / 裁判年月日: 昭和40年9月10日 / 結論: 棄却
一個の欺罔行為により財産上不法の利益を得、かつ、財物を騙取した場合は、単一なる詐欺罪を構成するものと解すべきである。
事件番号: 昭和42(あ)786 / 裁判年月日: 昭和42年12月21日 / 結論: 棄却
土地所有者の氏名を冒用して、簡易裁判所に起訴前の和解の申立をし、被告人に右土地の所有権移転登記手続をする旨の内容虚偽の和解調書を作成させたうえ、その正本を登記官吏に登記原因を証する書面として提出し、登記簿にその旨不実の記載をさせても、右土地に関する詐欺罪は成立しないものと解すべきである。
事件番号: 昭和41(あ)2908 / 裁判年月日: 昭和42年9月7日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】有印私文書偽造・同行使罪の共謀が認められるためには、単に虚偽内容の文書を作成して資金を借り受ける意思や共謀があるだけでは足りず、特定の他人の名義を冒用して文書を偽造し、これを行使することについての具体的な認識ないし共謀が必要である。 第1 事案の概要:被告人Aは、共犯者BおよびCと、架空の溜池改修…