一個の欺罔行為により財産上不法の利益を得、かつ、財物を騙取した場合は、単一なる詐欺罪を構成するものと解すべきである。
一個の欺罔行為により財産上不法の利益を得かつ財物を騙取した場合における罪数。
刑法246条
判旨
一個の欺罔行為によって財産上不法の利益を得、かつ財物を騙取した場合には、包括して単一の詐欺罪が成立する。
問題の所在(論点)
同一の被害者に対し、一個の欺罔行為によって「財物の交付(1項詐欺)」と「財産上不法の利益の取得(2項詐欺)」の両方の結果が発生した場合、いかなる罪数となるか。
規範
一個の欺罔行為により、刑法246条1項の「財物」の交付を受け、かつ同条2項の「財産上不法の利益」を得た場合、行為の単一性および被害態様の共通性から、包括して一罪(単一なる詐欺罪)を構成する。
重要事実
被告人Bらは、被害者に対して一個の欺罔行為を行い、これにより財産上の不法な利益(債務の免脱等)を得るとともに、同時に具体的な財物を交付させた。第一審および原審はこれを単一の詐欺罪として処断したため、弁護人は罪数判断の誤りを主張して上告した。
あてはめ
事件番号: 昭和41(あ)2732 / 裁判年月日: 昭和42年8月28日 / 結論: 棄却
甲から金員を騙取するため、乙名義の偽造の委任状等を登録官吏に提出し、乙の不動産の登記簿の原本に抵当権が設定された旨の不実の記載をさせて、これを行使するとともに、甲にその登録済権利証を示して、抵当権設定登録を経由した旨誤信させ、同人から借用金名下に金員を騙取したときは、公正証書原本不実記載罪とその行使罪と詐欺罪との牽連犯…
本件において被告人らは、単一の欺罔行為を手段として用いており、その結果として財物の取得と財産上の利益取得という二つの側面が生じている。しかし、行為が一個である以上、それによって得られた利益の内容が財物と財産上の利益の両方にまたがるとしても、社会通念上、独立した別個の犯罪が併存すると評価すべきではない。したがって、これらを包括して一個の詐欺罪の成立を認めた原判断は妥当である。
結論
一個の欺罔行為により財産上の利益を得、かつ財物を騙取した場合は、単一なる詐欺罪を構成する。
実務上の射程
1項詐欺と2項詐欺の区別が困難な事例や、双方が混在する事例において、罪数を単純化して処理する際の根拠となる。答案上は、観念的競合(54条1項前段)ではなく「単一の詐欺罪(包括一罪)」として処理すべき点に注意が必要である。
事件番号: 昭和26(あ)1640 / 裁判年月日: 昭和27年10月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】虚偽の書面を作成・行使して他人を欺罔し財物を交付させた場合、たとえ私文書偽造・同行使罪の成立が否定されたとしても、詐欺罪(刑法246条)が成立することに妨げはない。 第1 事案の概要:被告人は、虚偽の内容を含む書面を作成し、これを用いて相手方を欺き、金員等の交付を受けたとされる事案。第一審判決は私…
事件番号: 昭和40(あ)1717 / 裁判年月日: 昭和40年2月24日 / 結論: 棄却
共謀共同正犯における共謀の事実は罪となるべき事実であるから、証拠によつてその内容が証明されなければならないが、右共謀の内容が証拠によつて認定できる以上、判決文には単に「共謀の上」と判示しても違法とはいえないことは、当裁判所の判例−昭和二九年(あ)第一〇五六号、同三三年五月二八日大法廷判決、刑集一二巻八号一七一九頁−とす…
事件番号: 昭和41(あ)2440 / 裁判年月日: 昭和42年6月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】私文書偽造罪、同行使罪および詐欺罪が順次に手段・結果の関係にある場合、これらは刑法54条1項後段により、一罪(牽連犯)として処断すべきである。 第1 事案の概要:被告人は、私文書を偽造し(私文書偽造罪)、これを行使して(同行使罪)、人を欺いて財物を交付させた(詐欺罪)。第一審判決は、私文書偽造罪と…
事件番号: 昭和32(あ)2385 / 裁判年月日: 昭和35年10月26日 / 結論: 棄却
焼付鍍金を施した仏像がそれ相当の価値はあるとしても、原審是認の一審判示の様に真実に反する誇大な事実を告知して相手方を誤信させ金員の交付を受けた場合は、その交付を受けた金員全体につき詐欺罪が成立するものと解すべきである。