判旨
虚偽の書面を作成・行使して他人を欺罔し財物を交付させた場合、たとえ私文書偽造・同行使罪の成立が否定されたとしても、詐欺罪(刑法246条)が成立することに妨げはない。
問題の所在(論点)
特定の文書が「偽造」に当たらないと判断された場合であっても、当該文書を用いた欺罔行為に基づき財物の交付を受けた事実があるときに、独立して詐欺罪が成立するか。
規範
刑法246条の詐欺罪は、人を欺いて、財物を交付させた場合に成立する。当該欺罔行為において偽造された文書が介在していたとしても、その文書が法的意味における「偽造文書」に該当するか否かにかかわらず、欺罔行為によって相手方が錯誤に陥り、財物を交付したという因果関係が認められる限り、詐欺罪を構成する。
重要事実
被告人は、虚偽の内容を含む書面を作成し、これを用いて相手方を欺き、金員等の交付を受けたとされる事案。第一審判決は私文書偽造、同行使および詐欺の事実を認定したが、原判決(控訴審)は、私文書偽造・同行使の点については犯罪の成立を認めず、その部分を削除した上で、残る詐欺の事実のみを認定して有罪とした。被告人側は、私文書偽造等が成立しない以上、詐欺も成立しない等の趣旨で上告した。
あてはめ
本件において、原判決は第一審が認定した事実から私文書偽造・同行使の成立要件を欠くとしてその部分を削除している。しかし、詐欺罪の成否は、相手方を欺く行為があり、それにより財物の交付がなされたか否かによって決まるものである。文書が形式的に真正であっても内容が虚偽であれば欺罔の手段となり得るし、たとえ文書偽造罪の構成要件を充足しない文書であっても、これを示して他人を欺くことは可能である。したがって、詐欺の事実自体が認められる以上、私文書偽造罪の成否にかかわらず、詐欺罪が成立することは明白である。
結論
詐欺罪が成立する。したがって、詐欺の事実のみを認定して有罪とした原判決に判例違反や誤りはない。
実務上の射程
文書を利用した詐欺事案において、文書偽造罪と詐欺罪の罪数関係や構成要件の独立性を示す。実務上、名義人の承諾があるなどの事情で偽造罪が否定される場面でも、実態として欺罔行為が認められれば詐欺罪の立証は可能であることを強調する際に活用できる。
事件番号: 昭和56(あ)1377 / 裁判年月日: 昭和57年1月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】詐欺罪における欺罔行為とは、交付の判断の基礎となる重要な事項について虚偽の事実を告知することをいい、真実の用途を告知されていれば被害者が交付に応じなかったといえる場合には、詐欺罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人は、絵画を借り受けるにあたって、その真実の用途(転売や担保提供等、本来の借用目的と…
事件番号: 昭和27(あ)6498 / 裁判年月日: 昭和28年12月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】詐欺罪における欺罔行為は、必ずしも被害者に経済的損失を負わせることのみを目的とするものではなく、被害者が真実を知っていれば金品を交付しなかったであろう重要な事項について偽ることを含む。 第1 事案の概要:被告人らは共謀の上、特定の商品や権利の販売において、その性質や価値について虚偽の事実を告げた。…
事件番号: 昭和23(れ)676 / 裁判年月日: 昭和23年10月26日 / 結論: 棄却
架空の者を代表者として、実在する会社名義の契約書及び領収書を作成する行為は、私文書偽造罪を構成する。