判例違反の主張が理由なしとされた事例
判旨
詐欺罪における財物の交付とは、欺罔行為に基づく錯誤によって財物の現実の占有移転がなされることをいい、実体法上の権利移転や私法上の効果の有無は同罪の成否に影響しない。
問題の所在(論点)
詐欺罪における「交付」の意義。具体的には、欺罔によって財物が現実の占有移転をみたとしても、実体法上の権利移転を伴わない場合や、私法上の効果が否定される場合に詐欺罪が成立するか。
規範
詐欺罪(刑法246条1項)が成立するためには、欺罔行為による錯誤に基づいて、財物の「交付」、すなわち現実の占有移転がなされることが必要である。この「交付」は、外形的な占有の移転という事実があれば足り、その占有移転が実体的な権利の移転を伴うか、あるいは私法上の効果として有効なものであるか否かは、詐欺罪の成否に関わらない。
重要事実
被告人が、欺罔行為を用いて相手方から財物の交付を受けた。これに対し、弁護人は、交付後もなお交付者が占有権に基づき返還請求をなし得るような場合には、法的な意味での占有移転(交付)が認められず、詐欺罪は成立しないと主張して上告した。具体的な事件の事実関係(何を騙し取ったか等)の詳細は判決文からは不明である。
あてはめ
詐欺罪は、欺罔に基づく意思表示によって財物の占有が移転されることをもって既遂となる。本件において、被告人の欺罔行為により相手方が錯誤に陥り、その結果として財物の現実の占有移転がなされているのであれば、それは「交付」に該当するといえる。たとえ民法上の不法原因給付等の法理や、占有権に基づく返還請求権の存否といった私法上の評価が介在したとしても、現実の占有という事実上の支配が移転している以上、詐欺罪の構成要件を充足すると評価される。
結論
詐欺罪は成立する。財物の現実の占有移転があれば、実体的な権利移転の有無にかかわらず「交付」が認められるため、本件上告は棄却される。
実務上の射程
現実の占有移転を重視する本判例の立場は、財産罪の保護法益を事実上の占有そのものとする占有説的構成に親和的であり、民事上の権利関係の複雑さを刑法上の成否に持ち込まない簡明な判断枠組みとして、実務上広く活用されている。
事件番号: 昭和25(れ)761 / 裁判年月日: 昭和26年2月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の行為が詐欺罪(刑法246条1項)に該当するか、あるいは横領罪(刑法252条1項等)に該当するかという罪数・罪名選択の点において、証拠に基づき欺罔行為による財物の交付が認められる場合には詐欺罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人が行った具体的な行為の内容や、被害者から財物の交付を受けた際の…
事件番号: 昭和27(あ)6498 / 裁判年月日: 昭和28年12月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】詐欺罪における欺罔行為は、必ずしも被害者に経済的損失を負わせることのみを目的とするものではなく、被害者が真実を知っていれば金品を交付しなかったであろう重要な事項について偽ることを含む。 第1 事案の概要:被告人らは共謀の上、特定の商品や権利の販売において、その性質や価値について虚偽の事実を告げた。…