原判決は、本件詐欺被害者等は何れも、本件売買の目的物(註。骨董品)は判示元公爵家所蔵品である旨の被告人の虚言を信用したためこれを買受けたものであつて、そうでなければ本件売買は行われなかつたものであると認定しており、右認定に誤りはないこと記録に徴して明らかである。されば右の如く、真実を告知するときは相手方が金員を交付しないような場合において、目的物の出所来歴などにつき真実に反する事実を告知してその旨相手方を誤信させ、金員の交付を受けた場合は、仮令価格相当の目的物を提供したとしても、その交付を受けた金員全額につき詐欺罪が成立するものと解すべきである。
価格相当の目的物(骨董品)の提供と詐欺罪成立の範囲。
刑法246条
判旨
詐欺罪における欺罔行為とは、真実を告知すれば相手方が金員を交付しないような重要な事項を偽ることをいい、価格相当の目的物を提供したとしても交付を受けた金員全額について詐欺罪が成立する。
問題の所在(論点)
売買において目的物の出所・来歴を偽る行為が、刑法246条1項の「欺いて」にあたるか。また、交付された代金に相当する価値のある目的物が提供された場合に、財産上の損害(金員の交付)が認められるか。
規範
刑法246条1項の詐欺罪は、真実を告知すれば相手方が金員を交付しないような事情について、真実に反する事実を告知して相手方を誤信させ、金員を交付させた場合に成立する。この際、提供された目的物が価格相当であったとしても、交付された金員全額が損害となり、詐欺罪の成立を妨げない。
重要事実
被告人は、売買の目的物が「元公爵家の所蔵品」であるとの虚偽の事実を告げ、これを信用した被害者らから金員を受領した。実際には当該目的物は元公爵家の所蔵品ではなかったが、被告人側は、提供した目的物が受領した代金に見合う価値(価格相当性)を有しているとして、詐欺罪は成立しないと主張した。
あてはめ
本件被害者らは、目的物が元公爵家所蔵品であると誤信したために買受けたのであり、そうでなければ本件売買は行われなかったと認められる。このように、出所来歴が契約締結の判断に決定的な影響を及ぼす場合、それを偽る行為は欺罔行為にあたる。また、被害者は「特定の由来を持つ品物」を前提に金員を支出しており、その前提が欠如している以上、仮に商品の市場価格が代金に見合うものであっても、交付した金員全額が財産的損害と評価される。
結論
被告人の行為には詐欺罪が成立する。価格相当の目的物を提供したとしても、交付を受けた金員全額について詐欺罪の既遂となる。
実務上の射程
詐欺罪における「財産上の損害」が、客観的な経済的価値の差額ではなく、個別的な取引の目的(何に対して金を払うかという主観的意図)を重視して判断されることを示した。答案上は、実質的個別の損害概念の根拠として利用できる。
事件番号: 昭和46(あ)616 / 裁判年月日: 昭和47年3月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】詐欺罪における財物の交付とは、欺罔行為に基づく錯誤によって財物の現実の占有移転がなされることをいい、実体法上の権利移転や私法上の効果の有無は同罪の成否に影響しない。 第1 事案の概要:被告人が、欺罔行為を用いて相手方から財物の交付を受けた。これに対し、弁護人は、交付後もなお交付者が占有権に基づき返…
事件番号: 昭和32(あ)2385 / 裁判年月日: 昭和35年10月26日 / 結論: 棄却
焼付鍍金を施した仏像がそれ相当の価値はあるとしても、原審是認の一審判示の様に真実に反する誇大な事実を告知して相手方を誤信させ金員の交付を受けた場合は、その交付を受けた金員全体につき詐欺罪が成立するものと解すべきである。
事件番号: 昭和27(あ)6498 / 裁判年月日: 昭和28年12月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】詐欺罪における欺罔行為は、必ずしも被害者に経済的損失を負わせることのみを目的とするものではなく、被害者が真実を知っていれば金品を交付しなかったであろう重要な事項について偽ることを含む。 第1 事案の概要:被告人らは共謀の上、特定の商品や権利の販売において、その性質や価値について虚偽の事実を告げた。…