真実を告知するときは相手方が金員を交付しないような場合において、商品の効能などにつき真実に反する誇大な事実を告知してその旨相手方を誤信させ、金員の交付を受けた場合は、たとえ価格相当の商品を提供したとしても詐欺罪が成立する。
価格相当の商品の提供と詐欺罪の成立。
刑法246条
判旨
相当価格の商品を提供する売買契約等であっても、真実を告知すれば相手方が金員を交付しないような場合に、商品の効能等について虚偽の事実を告知して相手方を誤信させ、金員を交付させたときは詐欺罪(刑法246条1項)が成立する。
問題の所在(論点)
相当価格の商品の提供を伴う取引において、商品の効能等に虚偽があった場合、詐欺罪(刑法246条1項)における財産的損害および欺罔行為を認めることができるか。
規範
詐欺罪の成否において、交付された金員と提供された財物との間に経済的対価関係(相当価格)が認められる場合であっても、欺罔行為がなければ財産的処分行為を行わなかったといえる関係(処分行為の基礎となる重要な事項についての虚偽告知)があれば、詐欺罪は成立する。すなわち、真実を告知すれば相手方が金員を交付しなかったであろう事情につき、ことさら虚偽の事実を告知して誤信させた場合は、財産的損害が認められる。
重要事実
被告人は、バイブレーターの販売等に際し、顧客17名(A外16名)に対し、商品の効能などについて真実に反する虚構の事実を告知した。被告人は、当該商品(ドル・バイブレーター)の売買代金や保証金等の名目で、顧客らから現金の交付を受けた。弁護人は、当該商品の小売価格が実際に2,100円であり、相当価格の商品を提供している以上、詐欺罪は成立しないと主張して上告した。
あてはめ
本件では、被告人が告知した効能等の事実は虚構であり、もし真実を告知していれば、顧客らは商品の購入や保証金の支払いといった金員の交付を行わなかったと認められる。たとえ被告人が提供したバイブレーターが小売価格2,100円という相当な価値を有するものであったとしても、その購入の動機となる重要な事項(効能等)について欺罔がなされ、それによって本来行われないはずの支出がなされた以上、金員の交付という財産的損害を伴う処分行為が認められる。したがって、被告人の所為は詐欺罪の構成要件を充足する。
結論
被告人の行為は詐欺罪を構成する。相当価格の提供があっても、重要な事項に虚偽があり交付の動機を欠く場合には、詐欺罪の成立を妨げない。
実務上の射程
本判決は、詐欺罪における「財産的損害」を単なる形式的な経済的差額(交換価値の差)ではなく、処分行為に向けられた意思の自由を保護し、個別的な財産目的が害されたかという観点(個別財産説的アプローチ)から捉える実務上の基礎となる。答案では、被害者が何のために支出したかという「目的」に着目し、欺罔がなければその支出をしなかったといえる場合に本判例を引用して詐欺罪を肯定すべきである。
事件番号: 昭和31(あ)2449 / 裁判年月日: 昭和31年11月20日 / 結論: 棄却
一 祈祷師が、自己の行う祈祷が全然治病の効能なく、良縁、災難の有無、紛失物の行衛を知る効もないことを信じているにかかわらず、いかにもその効があるように申し欺いて祈祷の依頼者から祈祷料等の名義で金員の交付を受けるときは、詐欺罪を構成する。 二 (裁判官垂水克己の補足意見) かように依頼者が効能を期待せず且つ祈祷者において…
事件番号: 昭和27(あ)6498 / 裁判年月日: 昭和28年12月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】詐欺罪における欺罔行為は、必ずしも被害者に経済的損失を負わせることのみを目的とするものではなく、被害者が真実を知っていれば金品を交付しなかったであろう重要な事項について偽ることを含む。 第1 事案の概要:被告人らは共謀の上、特定の商品や権利の販売において、その性質や価値について虚偽の事実を告げた。…