判旨
公正証書原本不実記載罪において、所有権保存登記と抵当権設定登記に関する不実の記載は、それぞれ包括して一罪として処断することが認められる。また、起訴状記載の事実と変更後の事実に差異があっても、公訴事実の同一性を害しない限り、訴因の変更は適法である。
問題の所在(論点)
1.所有権保存登記および抵当権設定登記に関する不実記載行為を、それぞれ包括一罪として処断することの可否。2.起訴状記載の公訴事実と、追加変更された訴因との間に差異がある場合に、公訴事実の同一性が認められるか。
規範
1.公正証書原本不実記載罪(刑法157条1項)において、複数の登記申請行為がなされた場合であっても、認定された事実関係の下でそれらを包括して一罪として扱うことができる。2.公訴事実の同一性(刑事訴訟法312条1項)は、起訴状記載の公訴事実と訴因変更後の事実との間に差異があるとしても、その実質において同一性が認められる限り維持される。
重要事実
被告人が、所有権保存登記および抵当権設定登記に関し、公正証書の原本に不実の記載をさせ、これを行使したとして公正証書原本不実記載罪および同公使罪に問われた事案である。第一審は、これらの行為を各々包括一罪として処断した。また、手続過程において起訴状記載の公訴事実と訴因の追加変更が行われ、両者の間には内容上の差異が生じていた。
あてはめ
1.罪数について、原判決が是認した第一審の判断によれば、認定された事実関係を前提とする限り、各登記に関する不実記載および行使の罪を包括一罪として扱うことは是認できる。2.公訴事実の同一性について、起訴状の記載と訴因変更後の事実との間には所論のような差異が存するものの、その差異は本件公訴事実の同一性を害するほどに本質的なものではないと解される。
結論
1.所有権保存登記および抵当権設定登記に関する不実記載等の行為を包括一罪として処断した原判断は正当である。2.公訴事実の同一性は失われておらず、訴因の変更は適法である。
事件番号: 昭和41(あ)2732 / 裁判年月日: 昭和42年8月28日 / 結論: 棄却
甲から金員を騙取するため、乙名義の偽造の委任状等を登録官吏に提出し、乙の不動産の登記簿の原本に抵当権が設定された旨の不実の記載をさせて、これを行使するとともに、甲にその登録済権利証を示して、抵当権設定登録を経由した旨誤信させ、同人から借用金名下に金員を騙取したときは、公正証書原本不実記載罪とその行使罪と詐欺罪との牽連犯…
実務上の射程
本判決は、公正証書原本不実記載罪における罪数の数え方として包括一罪の成立を肯定するとともに、訴因変更における「公訴事実の同一性」の判断において、多少の事実的差異があっても同一性が維持され得ることを示している。実務上、複雑な登記申請が絡む事案での罪数決定や、訴因変更の許容範囲を検討する際の基礎的な指針となる。
事件番号: 昭和31(あ)2416 / 裁判年月日: 昭和35年1月11日 / 結論: 棄却
たとい不動産の真実の所有者であつても、登記簿上他人名義で登記されている不動産につき、その印鑑を保管しているのを奇貨としてこれを使用し、その承諾がないのに、該不動産を同人から自己に売却した旨の売渡証書を作成し、これを原因としかつ自ら作成した同人名義の委任状を利用し、自己に所有権の移転を受けた旨虚偽の登録申請をなし、登録原…
事件番号: 昭和38(あ)2436 / 裁判年月日: 昭和39年6月2日 / 結論: 棄却
被告人は登記簿上の建物所有名義人甲との間に現実の売買の事実がないのに拘らず、売買契約が成立した旨虚偽の証書を作成し、売買を登記原因として所有権移転登記を申請し、その旨登記簿原本に記載させるなど原判示所為に出たものであるときは、たとえ、右建物の真実の所有者が被告人であり、甲が将来その登記名義を被告人に変更することを予め諒…
事件番号: 昭和37(あ)208 / 裁判年月日: 昭和38年5月30日 / 結論: 棄却
行使の目的をもつて、振出人欄に他人名義を冒用して約束手形を偽造し、かつその裏書人欄に他人名義を冒用して虚偽の記入をし、その表裏の記入を相合して裏書担保のある約束手形を作成したときは、これらの行為は包括的に刑法第一六二条第一項の有価証券偽造の一罪を構成する。
事件番号: 昭和28(あ)1870 / 裁判年月日: 昭和33年3月27日 / 結論: 棄却
商法(昭和一三年法律第七二号による改正後のもの)第四八九条(会社財産を危くする罪)第一号の罪と刑法第一五七条の罪(公正証書原本不実記載罪)とは、共に成立し、両者は刑法第五四条第一項前段の関係に立ちうる。