数人の代表取締役が共同して会社を代表する定めがある場合に、その一人が、他の代表取締役の署名もしくは印章を冒用して、共同代表の形で会社名義の文書を作成する行為は、文書偽造罪を構成する。
共同代表取締役の一人が他の共同代表取締役の署名印章を冒用して共同代表の形でした会社名義の文書の作成と文書偽造罪の成立
刑法159条1項,商法261条2項
判旨
共同代表の定めがある会社の代表取締役が、行使の目的で、他の代表取締役の署名等を冒用して共同代表名義の文書を作成する行為は、文書偽造罪を構成する。
問題の所在(論点)
共同代表の定めがある場合において、代表取締役の一人が他の代表取締役の署名等を冒用して共同代表名義の文書を作成する行為が、文書偽造罪(刑法159条1項)を構成するか。単独での作成権限の有無が問題となる。
規範
有印私文書偽造罪(刑法159条1項)における「偽造」とは、作成権限のない者が、他人の名義を冒用して文書を作成することをいう。数人の代表取締役が共同して会社を代表すべき旨の定めがある場合、各代表取締役は単独で会社を代表する権限を有さず、他の代表取締役と共同してのみ代表権を行使できる。したがって、代表取締役の一人が他の代表取締役の承諾なくその署名や印章を冒用し、共同代表の形式で文書を作成する行為は、作成権限を逸脱したものとして「偽造」に該当する。
重要事実
被告人は、数人の代表取締役が共同して会社を代表する定めがある会社の代表取締役の一人であった。被告人は、行使の目的をもって、他の代表取締役の承諾を得ることなく、その他人の署名または印章を冒用し、共同代表の形で会社名義の文書を作成した。
事件番号: 昭和41(あ)2908 / 裁判年月日: 昭和42年9月7日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】有印私文書偽造・同行使罪の共謀が認められるためには、単に虚偽内容の文書を作成して資金を借り受ける意思や共謀があるだけでは足りず、特定の他人の名義を冒用して文書を偽造し、これを行使することについての具体的な認識ないし共謀が必要である。 第1 事案の概要:被告人Aは、共犯者BおよびCと、架空の溜池改修…
あてはめ
本件会社には共同代表の定めがあったため、各代表取締役には単独で会社を代表する権限は付与されていない。それにもかかわらず、被告人は他の代表取締役の署名等を無断で用いており、これは形式的にも実質的にも作成権限のない者による他人の名義の冒用にあたる。よって、当該文書の作成行為は、作成権限の範囲外の行為であり、偽造にあたるといえる。
結論
代表取締役の一人が、他の代表取締役の署名等を冒用して共同代表名義の文書を作成する行為は、有印私文書偽造罪を構成する。
実務上の射程
共同代表制における代表権の制限が、刑法上の作成権限の有無に直結することを示した判例である。答案上は、名義人と作成者の不一致(偽造の定義)を論じる際、会社法上の共同代表の定めに言及し、単独での作成権限が否定されることを論拠として活用する。
事件番号: 昭和28(あ)1588 / 裁判年月日: 昭和30年6月29日 / 結論: 棄却
有価証券偽造罪を判示するにあたつては、いかなる名義人のいかなる内容の有価証券であるかがわかる程度に判示するを以て足り、商法上の手形要件を全部表示するの必要はない。
事件番号: 昭和44(あ)1421 / 裁判年月日: 昭和45年9月4日 / 結論: 棄却
他人の代表者または代理人として文書を作成する権限のない者が、他人を代表もしくは代理すべき資格、または、普通人をして他人を代表もしくは代理するものと誤信させるに足りるような資格を表示して作成した文書の名義人は、代表もしくは代理された本人であると解するのが相当である。
事件番号: 昭和33(あ)1735 / 裁判年月日: 昭和34年8月28日 / 結論: 棄却
A鉄道管理局B電力区助役として区長を補佐する傍ら同管理局から出納員もしくは事務助役出納員として指命され、部内職員の給料、族費等の交付、保管等対内的な出納事務には従事するが、同電力区助役もしくは右出納員名義をもつて対外部関係に関する公文書を作成すべき一般的職務権限を有しない被告人が、行使の目的をもつて内容虚偽の電柱代金代…
事件番号: 平成5(あ)135 / 裁判年月日: 平成5年10月5日 / 結論: 棄却
自己の氏名が弁護士甲と同姓同名であることを利用して、「弁護士甲」の名義で弁護士の業務に関連した形式、内容の文書を作成した所為は、たとえ名義人として表示された者の氏名が自己の氏名と同一であったとしても、私文書偽造罪に当たる。