甲に対し自己の不動産につき根抵当権設定後、いまだその登記なきを利用し、さらに乙に対して根抵当権を設定してその登記を了する所為は、甲に対する背任罪を構成する。
いわゆる二重抵当は背任罪を構成するか
刑法247条
判旨
不動産抵当権設定者の登記協力義務は「他人の事務」に当たり、第一順位の抵当権を設定すべき任務に背いて後順位とした場合は、目的物の価額を問わず「財産上の損害」が認められる。
問題の所在(論点)
1. 不動産抵当権設定者が負う「登記協力義務」が、背任罪の要件である「他人の事務」に該当するか。 2. 予定された抵当権の順位が後位に転じた場合、不動産の価額が債務額を上回っていても「財産上の損害」が認められるか。
規範
1. 刑法247条にいう「他人の事務」とは、自己の事務であると同時に他人のために行われる性質を有する事務を含む。不動産の抵当権設定者は、登記を完了するまでは抵当権者に協力する任務を負い、これは主として他人のために負うものと解される。 2. 「財産上の損害」とは、現実に財産が減少したことのみならず、財産上の利益が侵害された場合も含む。抵当権の順位は優先弁済を受ける財産上の利害に関する問題であるため、予定された順位が後位に転じること自体が損害にあたる。
重要事実
被告人は、債権者Aに対し、自己が所有する不動産に第一順位の抵当権を設定することを約して金員を借り受けた。しかし、被告人はその任務に背き、Aのために第一順位の抵当権設定登記を完了する前に、他の債権者のために別の抵当権(根抵当権)を設定・登記し、結果としてAの抵当権を後順位(第二順位)に追いやった。弁護側は、抵当権設定登記義務は自己の義務であり、また不動産の余剰価値が十分であれば損害はないと主張した。
あてはめ
1. 抵当権設定者が負う登記協力義務は、登記という共同申請行為を通じて抵当権者に権利を確定させる性質を持つため、主として他人のために負う任務といえ、「他人の事務」に当たる。 2. 抵当権の順位は、どの抵当権者が優先的に弁済を受けるかという重大な財産上の利害に直結する。したがって、第一順位を確保すべき任務に反して後順位とした時点で、客観的な担保価値の減少を問わず、Aの財産上の利益を侵害したといえる。
結論
被告人の行為は背任罪を構成する。抵当権設定登記義務は他人の事務であり、抵当権の順位を低下させることは財産上の損害に該当するため、有罪とした原判決は正当である。
実務上の射程
二重抵当や後順位抵当の設定事案において、背任罪の成否を論ずる際のリーディングケースである。特に「登記協力義務」が他人の事務となる点、および担保価値の余剰にかかわらず「順位の低下」をもって損害とする点は、答案上も必須の論理構成となる。不動産売買の二重譲渡における背任罪の議論とも平行的であり、事務の帰属と損害の概念を拡張的に解釈する実務の基本的立場を示している。
事件番号: 平成11(あ)941 / 裁判年月日: 平成15年3月18日 / 結論: 棄却
株式を目的とする質権の設定者が,質入れした株券について虚偽の申立てにより除権判決を得て株券を失効させ,質権者に損害を加えた場合には,背任罪が成立する。