判旨
受任者が委任者のために自己の名で取得した権利であっても、委任契約が解除され当該権利を委任者に移転する義務が消滅した後は、もはや「他人の事務」にはあたらず、これを第三者に処分しても背任罪は成立しない。
問題の所在(論点)
委任契約が解除され、受任者の権利移転義務が消滅した後に、受任者が自己名義の目的物を処分した行為について、背任罪における「他人の事務を処理する者」による任務違背行為といえるか。
規範
背任罪(刑法247条)の主体である「他人の事務を処理する者」とは、他人の財産上の事務につき、信任関係に基づきその事務を処理する任務を有する者をいう。受任者が自己の名で取得した権利について、委任契約の趣旨に照らし、委任者が代金準備等の条件を履行しない限り権利移転義務が生じない場合において、当該条件の不成就により委任契約が解除されたときは、民法646条2項に基づく権利移転義務も消滅するため、以降その事務は「他人の事務」としての性質を失う。
重要事実
被告人は、Aの委託により山林立木を自己名義で買い受ける予約を村と締結し、Aが代金を準備次第、立木所有権をAに取得させる任務を負っていた。しかし、Aが期限までに代金を準備できなかったため、被告人はAに対し契約解除の通知を行った。その後、被告人は形式上自己名義であることを奇貨として、当該立木を第三者に転売し、Aに損害を与えたとして背任罪で起訴された。
あてはめ
本件委任契約の趣旨が、Aが代金を準備しない限り被告人に権利移転等の義務が生じないという内容であったならば、Aの代金不準備を理由とする解除により、被告人は義務を完全に免れたといえる。受任者が自己の名で取得した権利(売買予約上の権利)であっても、移転義務が生じる前に契約が解除された以上、もはや民法646条2項の適用はなく、委任者への権利移転は不要となる。したがって、解除後においてはAに対する委任契約上の義務は存在せず、被告人の行為は「他人の事務」の処理にはあたらない。
結論
被告人はAに対し委任契約上の義務を負っておらず、背任罪は成立しない。原審が委任契約の趣旨や義務の存否を十分に審理せずに有罪としたことは、審理不尽の違法がある。
実務上の射程
背任罪の成否において、事務の帰属(自己の事務か他人の事務か)を契約上の権利義務関係から厳密に判断する指針となる。特に不動産や権利の身代わり取得(他人の名義を借りた取引)において、契約関係の終了や解除が「他人の事務を処理する者」という身分の喪失に直結することを示す。
事件番号: 平成11(あ)941 / 裁判年月日: 平成15年3月18日 / 結論: 棄却
株式を目的とする質権の設定者が,質入れした株券について虚偽の申立てにより除権判決を得て株券を失効させ,質権者に損害を加えた場合には,背任罪が成立する。