甲銀行の頭取乙が,丙信用保証協会の役員丁から,丙の基本財産の増強計画に基づき甲において負担金を拠出するよう依頼された際に,丁に対し,丙の甲に対する別件の保証債務につき免責を主張する丙の方針を見直して代位弁済に応ずるよう要請した結果,丁ら役員が丙の従前の方針を変更し,丙が代位弁済に応じた場合において,甲が上記負担金の拠出を拒絶することが実際上可能であったか疑問であること,丙としては代位弁済に応ずることと負担金の拠出が受けられないこととの利害得失を総合検討して態度を決定すべき立場にあったことなどの事情の下では(判文参照),乙が丁らと共謀して丙に対する背任罪を犯したと認めるには,合理的な疑いが残る。
銀行の頭取が信用保証協会の役員と共謀して同協会に対する背任罪を犯したと認めるには合理的な疑いが残るとされた事例
刑法60条,刑法65条,刑法247条
判旨
背任罪の成否において、事務担当者間の合意を覆す交渉や、負担金の拠出と引換えに代位弁済を求める行為が、直ちに任務違背やその認識を基礎付けるものではない。被告人の要求が任務違背の共謀に当たるかは、諸般の利害得失を慎重に検討した上での判断を要し、合理的疑いがある場合は背任罪は成立しない。
問題の所在(論点)
金融機関の代表者が、信用保証協会に対して自己の有利な処理を強く求めた行為が、協会役員らによる任務違背行為の共謀(背任罪の共同正犯)にあたるか。
規範
背任罪(刑法247条)の成立には、他人(本件では協会役員ら)の任務違背行為および被告人との共謀が必要である。正当な理由に基づく交渉の結果、当初の免責方針を変更したとしても、それが組織全体の利害得失を総合検討した上での経営判断の範囲内であれば、直ちに任務違背とは断定できない。また、共謀の認定には、被告人において当該行為が任務違背であることを具体的に認識している必要がある。
重要事実
石川県信用保証協会(協会)は、D社がE銀行(被告人が頭取)から受けた融資を保証していた。D社倒産後、協会担当者はE銀行の担保登記漏れ等を理由に免責を通知した。これに対し被告人は、協会への負担金拠出を拒む姿勢を見せつつ、本件免責を「無茶だ」として撤回し代位弁済に応じるよう強く要請した。協会役員らは、E銀行の負担金がなければ財産増強計画に支障が出ると判断し、免責を撤回して約8000万円を代位弁済した。
あてはめ
第一に、負担金拠出と代位弁済の可否は、協会にとって全体の利害得失を慎重に比較検討すべき事項であり、拠出確保のために代位弁済に応じることが直ちに任務違背とはいえない。第二に、事務担当者間の交渉結果を役員間の交渉で再検討させること自体は不当ではない。第三に、登記漏れ以外の免責事由について当時の被告人が認識していた事実は確定しておらず、一部の登記漏れのみで全額免責とすることが当然であるとは言い切れない。したがって、被告人が任務違背を認識した上で共謀したと断定するには合理的疑いが残る。
結論
被告人の要求行為が直ちに任務違背の共謀にあたるとした原判決には事実誤認および法令適用の誤りがある。よって、原判決を破棄し、差し戻すべきである。
実務上の射程
背任罪における「任務違背」の判断において、単なる担当者レベルの合意違反や強い交渉態度の存在だけでは足りず、組織全体の経営的判断としての合理性や、被告人の認識(故意)の具体性が厳格に吟味されるべきことを示した事例である。答案上は、共謀の成立要件における「任務違背の認識」を否定する際の論拠として有用である。
事件番号: 平成11(あ)941 / 裁判年月日: 平成15年3月18日 / 結論: 棄却
株式を目的とする質権の設定者が,質入れした株券について虚偽の申立てにより除権判決を得て株券を失効させ,質権者に損害を加えた場合には,背任罪が成立する。