交通事故の被害者の加害者に対する車両損傷を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権の民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)724条前段所定の消滅時効は,同一の交通事故により同一の被害者に身体傷害を理由とする損害が生じた場合であっても,被害者が,加害者に加え,上記車両損傷を理由とする損害を知った時から進行する。
交通事故により被害者に身体傷害及び車両損傷を理由とする各損害が生じた場合における,被害者の加害者に対する車両損傷を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権の民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)724条前段所定の消滅時効の起算点
民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)724条
判旨
同一の交通事故により被害者に身体傷害と車両損傷の双方が生じた場合、車両損傷による損害賠償請求権の短期消滅時効は、身体傷害の症状固定を待たず、被害者が加害者および車両損傷による損害を知った時から進行する。
問題の所在(論点)
同一の交通事故により身体傷害と車両損傷が併発した場合において、車両損傷に基づく損害賠償請求権の短期消滅時効は、身体傷害による損害を含む「損害の全体」を知った時から進行するのか、それとも「車両損傷による損害」を知った時から個別に進行するのか。
規範
不法行為に基づく損害賠償請求権の短期消滅時効(旧民法724条前段)の起算点は、権利の種類ごとに各別に判断されるべきである。同一の事故により身体傷害と車両損傷の双方が生じたとしても、両者は被侵害利益を異にする別個の請求権であるため、車両損傷による損害賠償請求権の時効は、被害者が加害者に加え「当該車両損傷を理由とする損害」を知った時から進行する。
重要事実
平成27年2月26日、被害者(被上告人)の大型自動二輪車と加害者(上告人)の自動車が衝突する事故が発生した。被害者は頸椎捻挫等の傷害を負い、同年8月25日に症状固定した。被害者は、同年8月13日までに加害者を知っていた。その後、被害者は平成30年8月14日に本件訴訟を提起したが、加害者は車両損傷に関する損害賠償請求権につき、事故から3年が経過しているとして消滅時効を援用した。
あてはめ
車両損傷による損害と身体傷害による損害は、同一の事故によるものであっても被侵害利益を異にする別個の請求権である。本件では、被害者は事故当日には車両損傷の損害を知り、遅くとも平成27年8月13日には加害者を知っていたといえる。したがって、車両損傷による損害賠償請求権の時効は同日から進行し、訴え提起時には3年の時効期間が完成していたと解される。身体傷害の症状固定日(同年8月25日)まで起算点を遅らせる理由は認められない。
結論
車両損傷による損害賠償請求権は時効により消滅しているため、当該請求は棄却される。
実務上の射程
同一事故で物的損害と人的損害が生じた場合、時効の起算点は請求権ごとに個別判断される。物的損害は事故直後に損害把握が可能なことが多いため、身体傷害の治療継続中でも先に時効が完成し得る点に注意が必要である。なお、改正後民法においても、物損の時効期間(3年)と人身損害の時効期間(5年)が異なるため、本判例の趣旨は重要である。
事件番号: 昭和48(オ)1214 / 裁判年月日: 昭和49年9月26日 / 結論: 棄却
不法行為による受傷の後遺症が顕在化したのちにおいて、症状は徐々に軽快こそすれ、悪化したとは認められないなど、受傷したのちの治療経過が原審認定のとおり(原判決理由参照)である場合には、右後遺症が顕在化した時が民法七二四条にいう損害を知つた時にあたり、その時から後遺症に基づく損害賠償請求権の消滅時効が進行する。