監査の範囲が会計に関するものに限定されている監査役は,計算書類及びその附属明細書の監査を行うに当たり,会計帳簿が信頼性を欠くものであることが明らかでない場合であっても,当該計算書類等に表示された情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認しさえすれば,常にその任務を尽くしたといえるものではない。 (補足意見がある。)
監査の範囲が会計に関するものに限定されている監査役は,計算書類及びその附属明細書の監査を行うに当たり,当該計算書類等に表示された情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認しさえすれば,その任務を尽くしたといえるか
会社法389条1項,会社法389条2項,会社法423条1項,会社法436条1項,会社計算規則121条2項,会社計算規則122条1項2号,会社計算規則(平成21年法務省令第7号による改正前のもの)149条2項,会社計算規則(平成21年法務省令第7号による改正前のもの)150条1項2号
判旨
会計限定監査役は、計算書類等が会社の財産及び損益の状況を適正に表示しているかを確認するため、会計帳簿が信頼性を欠くことが明らかでなくとも、必要に応じて取締役等に報告を求め、又はその基礎資料を確かめる等の義務を負う。したがって、計算書類等と会計帳簿の合致を確認しただけでは、直ちに任務を尽くしたとはいえない。
問題の所在(論点)
会計限定監査役が、会計帳簿と計算書類の合致を確認した場合において、会計帳簿の信頼性に疑義を生じさせる具体的な事情がなくとも、その基礎資料(証憑)の確認まで行うべき任務(423条1項の任務懈怠の有無)を負うか。
規範
監査役は、計算書類等の情報の信頼性を担保し適正な表示を確保する役割を担う(会社法436条1項等)。計算書類は会計帳簿に基づき作成されるが、監査役は会計帳簿が正確であることを当然の前提とすべきではなく、その作成状況等につき取締役等に報告を求め、又はその基礎資料を確かめるなどすべき場合がある。これは会計限定監査役(389条1項)であっても、調査権限(同条4項、5項)が与えられている以上、同様である。したがって、会計帳簿が信頼性を欠くことが明らかでない場合でも、単に計算書類と会計帳簿の合致を確認しただけでは、常に任務(善管注意義務:330条、423条1項)を尽くしたとはいえない。
重要事実
非公開かつ会計監査人を置かない株式会社である上告人において、経理担当従業員が多額の預金を横領し、残高証明書を偽造して隠蔽した。会計限定監査役であった被上告人は、偽造された残高証明書と会計帳簿を照合し、計算書類との合致を確認したのみで適正意見を表明し、横領を見逃した。原審は、会計帳簿が信頼を欠くことが明らかである等の特段の事情がない限り、会計帳簿と計算書類の合致を確認すれば任務を怠ったとはいえないとして、被上告人の責任を否定した。
あてはめ
監査の目的は、会社の財産・損益状況が適正に表示されているかを担保することにある。本件において、被上告人は計算書類と会計帳簿の形式的な合致を確認しているが、会計限定監査役であっても、その実効性を確保するために基礎資料の確認等を行うべき権限と義務を有している。特に、本件口座に係る預金の重要性や管理状況に照らし、通常の会計限定監査役として、インターネット上の映像閲覧や残高証明書原本の提示要求等の具体的行為を行うことが合理的に期待できる場合には、それを行わなかったことに任務懈怠が認められ得る。
結論
被上告人が任務を怠ったとはいえないとした原審の判断には法令の違反がある。会計限定監査役の具体的任務の範囲は、当該口座の重要性や管理状況等の諸事情に照らして判断されるべきであり、本件を差し戻す。
実務上の射程
会計限定監査役であっても、いわゆる「帳簿監査」に留まらず、必要に応じて「実査・証憑監査」を行うべき善管注意義務を負うことを明確にした。答案では、被告が会計限定監査役であっても「計算書類と会計帳簿の合致」だけで義務充足を認めず、不正を疑うべき事情の有無や、確認すべき基礎資料へのアクセスの容易性等の具体的事情を拾って、善管注意義務の内容を具体化する際に用いる。
事件番号: 昭和38(オ)660 / 裁判年月日: 昭和38年10月24日 / 結論: 棄却
不当な判決を請求原因として国家賠償法に基き損害の賠償を求めるには、裁判官が職務上の義務に違反し又はその職権を乱用して他人に損害を加えた事実をも主張しなければならない。