農業協同組合の代表理事が,補助金の交付を受けることにより同組合の資金的負担のない形で堆肥センター建設事業を進めることにつき理事会の承認を得たにもかかわらず,補助金の交付申請につき理事会に虚偽の報告をするなどして同組合の費用負担の下で同事業を進めた場合において,代表理事が,(1)理事会において,それまでの説明に出ていなかった補助金の交付申請先に言及しながら,その申請先や申請内容について具体的な説明をすることなく,補助金の受領見込みについてあいまいな説明に終始した上,(2)その後の理事会においても,補助金が入らない限り同事業に着手しない旨を繰り返し述べていながら,補助金の受領見込みを明らかにしないまま,同組合の資金の立替えによる建設用地の取得を提案したなど判示の事実関係の下においては,代表理事に対し,補助金の受領見込みに関する資料の提出を求めるなどして,建設資金の調達方法を調査,確認することなく,同事業が進められるのを放置した同組合の監事は,その任務を怠ったものというべきである。
農業協同組合の代表理事が,補助金の交付を受けることにより同組合の資金的負担のない形で堆肥センター建設事業を進めることにつき理事会の承認を得たにもかかわらず,その交付申請につき理事会に虚偽の報告をするなどして同組合の費用負担の下で同事業を進めた場合において,資金の調達方法を調査,確認することなく,同事業が進められるのを放置した同組合の監事に,任務のけ怠があるとされた事例
農業協同組合法(平成17年法律第87号による改正前のもの)33条1項,農業協同組合法(平成17年法律第87号による改正前のもの)33条2項,農業協同組合法(平成17年法律第87号による改正前のもの)39条1項,農業協同組合法(平成17年法律第87号による改正前のもの)39条2項,商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)254条3項,商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)274条1項,民法644条,会社法381条1項
判旨
農協の監事は、理事の業務執行を監査する職責を負い、その責任は代表理事への一任や監査を逐一行わないという不適切な慣行があっても軽減されない。理事が不透明な資金調達に基づき事業を強行しようとする等、善管注意義務違反を疑わせる事情がある場合、監事は資料提出や調査・確認を行う義務を負い、これを怠れば任務懈怠責任を免れない。
問題の所在(論点)
理事が虚偽の説明に基づき不適正な業務執行を行っている際、監事がその裏付け資料を確認せず放置したことが、農協法39条2項・33条2項に基づく任務懈怠(善管注意義務違反)に該当するか。また、法的に不適切な組織慣行が監事の責任を軽減する事由となるか。
規範
監事は、理事の業務執行が適法に行われているか否かを善管注意義務をもって監査すべき職責を負う(農協法39条、旧商法274条等)。この職責は、たとえ代表理事が理事会の一任を取り付けて業務執行を決定し、他の理事が関与せず、監事も逐一監査を行わないという慣行が存在したとしても、それ自体が不適正なものである以上、軽減されない。理事が善管注意義務違反を疑わせる言動を行っている場合には、監事は必要に応じて資料提出を求め、業務・財産の状況を調査・確認すべき義務がある。
重要事実
農協の代表理事Aは、補助金により自己負担なしで堆肥センターを建設すると説明していたが、実際には申請すら行わず虚偽の説明を繰り返していた。その後、Aは補助金受領の見込みが不明なまま、農協の自己資金による立替を提案し、理事会の承認限度額を超える土地購入や建設工事を強行した。監事であった被上告人は、Aの説明が曖昧で事業実現性に疑義がある状況下でも、補助金の申請内容や受領見込みに関する資料請求や調査を一切行わず、事業が放置・推進される結果を招いた。
あてはめ
Aは補助金申請先を変更したと述べながら具体的説明をせず、なし崩し的に農協の資金支出を伴う事業実施へ誘導しており、善管注意義務違反を疑わせるに十分な言動があった。被上告人は監事として理事会に出席しており、資金調達の確実性に疑義を抱き資料提出や調査・確認を行うべき義務があったといえる。原審が指摘する「代表理事への一任慣行」は不適正なものであり、これにより監事の職責が軽減されることはない。したがって、調査を怠り事業を放置した被上告人の行為は任務懈怠にあたる。
結論
被上告人には任務懈怠が認められ、調査を行っていれば損害を阻止できたとして、任務懈怠と損害(事業中止に伴う精算費用等)との間の相当因果関係も認められる。よって、被上告人は損害賠償責任を負う。
実務上の射程
株式会社の監査役の責任を論じる際にも援用可能。特に「代表取締役への丸投げ」や「不適切な社内慣行」を理由に監査役が責任を免れることはできないとする規範は、コーポレートガバナンスにおける監視義務・監査義務の核心として答案上重要である。事実認定において、理事の言動が『善管注意義務違反を疑わせるに十分』かどうかが、監事の具体的調査義務発生の分水嶺となる。
事件番号: 昭和59(オ)208 / 裁判年月日: 昭和59年10月4日 / 結論: 棄却
商法(昭和五六年法律第七四号による改正前のもの)二六六条の三第一項の規定に基づく取締役の損害賠償については民法七二二条二項の適用がある。