商法(昭和五六年法律第七四号による改正前のもの)二六六条の三第一項の規定に基づく取締役の損害賠償については民法七二二条二項の適用がある。
商法(昭和五六年法律第七四号による改正前のもの)二六六条の三第一項の規定に基づく取締役の損害賠償と民法七二二条二項
民法722条2項,商法(昭和56年法律第74号による改正前のもの)266条の3第1項
判旨
取締役が代表取締役の職務執行を監視し違法行為を防止すべき義務を負うにもかかわらず、会社の倒産を予見しながら特定の債権者に優先的に債権回収をさせる目的で第三者と契約を締結させ、当該第三者に損害を与えた場合、取締役としての職務懈怠による損害賠償責任を免れない。
問題の所在(論点)
取締役が代表取締役の行為を制止せず、むしろ特定の債権者への優先弁済を図る目的で第三者に損害を与えるような取引を代表取締役に継続させた場合、当該取締役は会社法(旧商法266条の3第1項)上の第三者に対する賠償責任を負うか。
規範
取締役は、代表取締役の職務執行を監視し、違法行為を防止すべき義務(監視義務)を負う。会社が債務超過等により倒産が不可避な状況において、特定の債権者に偏頗な利益を得させる一方で、新規の取引先が代金回収不能に陥ることが予見されるにもかかわらず、あえて当該取引を敢行させる行為は、取締役としての職務上の懈怠(任務懈怠)にあたる。
重要事実
上告人はD産業の取締役であった。D産業は倒産が不可避な状況にあり、上告人は特定の債権者(F社)の債権を輸出代金から優先的に回収させようと画策した。その際、回航業務を行う被上告人が代金を受け取れなくなることを十分に予見しながら、代表取締役Eをして被上告人と回航契約を締結させ、実際に回航業務を履行させた。結果として被上告人は回航代金相当額の損害を被った。
あてはめ
上告人は、D産業の倒産を予見し、被上告人が代金の弁済を受けられなくなることを認識しながら、代表取締役Eの行為を抑止するどころか積極的に契約を締結させた。これは、代表取締役の職務執行を監視し違法行為を防止すべき義務に著しく違反する。特定の債権者への利益供与を優先し、新規取引先である被上告人に一方的に損害を押し付ける行為は、取締役としての職務懈怠(悪意または重大な過失)と評価される。
結論
上告人は取締役としての職務懈怠に基づき、被上告人に対して損害賠償責任を負う。ただし、被上告人側にも不注意が認められるため、1割の過失相殺を適用した原審の判断は正当である。
実務上の射程
代表取締役以外のいわゆる「平取締役」であっても、他の役員の不正や不当な取引を看過した場合には監視義務違反としての任務懈怠責任を問われることを示す。特に倒産直前の偏頗な取引に関与・黙認した場合の第三者責任を追及する際の有力な根拠となる。
事件番号: 昭和53(オ)369 / 裁判年月日: 昭和55年3月18日 / 結論: その他
株式会社の取引先の会社の代表者の地位にある者が要請によつて右株式会社の資本金の五分の一に相当する株式を取得するとともに、株式会社には常勤せず、その経営内容にも深く関与しないことを前提とするいわゆる社外重役として名目的に取締役に就任したものであつても、同株式会社の代表取締役の業務執行を全く監視せず、取締役会を招集すること…