株式会社の取引先の会社の代表者の地位にある者が要請によつて右株式会社の資本金の五分の一に相当する株式を取得するとともに、株式会社には常勤せず、その経営内容にも深く関与しないことを前提とするいわゆる社外重役として名目的に取締役に就任したものであつても、同株式会社の代表取締役の業務執行を全く監視せず、取締役会を招集することを求めたり、又は自らそれを招集したりすることもなく、同人の独断専行に任せ、その間、同人が代金支払の見込みもないのに商品を買い入れ、その代金を支払うことができずに売主に対し、代金相当額の損害を与えた場合には、右名目的取締役は、商法二六六条ノ三第一項前段所定の損害賠償責任がある。
いわゆる社外重役として名目的に就任した取締役につき商法二六六条ノ三第一項前段所定の第三者に対する損害賠償責任が認められた事例
商法266条ノ3
判旨
名目的取締役であっても、代表取締役の業務執行全般を監視すべき職責を負い、これを怠った場合には役員等の第三者に対する賠償責任を免れない。監視を尽くしても損害を防止できなかったという特段の事情がない限り、任務懈怠と損害との間の相当因果関係は否定されない。
問題の所在(論点)
名目的取締役に代表取締役の業務執行を監視する義務が認められるか、また、その監視を怠ったことと第三者の損害との間に相当因果関係が認められるか(旧商法266条の3第1項、現会社法429条1項)。
規範
取締役は、取締役会に上程された事項のみならず、代表取締役の業務執行全般を監視し、必要があれば取締役会の招集を求め、又は自ら招集する等して業務の適正を確保すべき職責(会社法362条2項2号等)を負う。この職責は、いわゆる社外重役として名目的に就任した取締役であっても同様である。また、任務懈怠と損害との間の因果関係は、当該取締役が職責を尽くしていれば損害を防止できたといえる場合には肯定される。
重要事実
被上告人B1は、代表取締役Dの要請により会社の新株の20%を引き受け、名目的な取締役(社外重役)に就任した。B1は一度も出社せず、Dの独断専行を全く監視していなかった。その間、Dは代金支払の見込みがないのに原告から物品を買い受け、原告に損害を与えた。二審は、B1は名目的取締役であり監視義務はないとし、仮に監視してもDが意見を尊重する態度はなかったため損害防止は不可能(因果関係なし)として責任を否定した。
あてはめ
まず、B1は名目的取締役であっても、上記規範のとおり代表取締役の監視義務を負う。B1が一切の監視を行わなかったことは任務懈怠に当たる。次に因果関係について、原審は損害防止は不可能としたが、B1は取引先の代表者であり発行済株式の5分の1を保有する大株主でもあった。このような事情・経緯に照らせば、B1のDに対する影響力は少なくなかったと考えられ、直ちに職責を尽くすことが不可能であったとはいえない。したがって、B1が適切に監視・是正を求めていれば、Dの放漫な取引を阻止し得た可能性があり、因果関係が肯定される余地がある。
結論
名目的取締役であっても監視義務を負い、その任務懈怠と損害との間の相当因果関係が否定されるのは、職責を尽くしてもなお損害防止が不可能であったという客観的事実がある場合に限られる。原審を差し戻す。
実務上の射程
会社法429条1項の責任を検討する際のリーディングケースである。答案では、①名目的取締役であっても監視義務を免れないこと、②因果関係の判断において「もし監視していれば損害を防止できたか」という仮定的判断を行うこと、③その際、当該取締役の属性(持株比率や地位)による影響力を考慮することを論述の核とする。
事件番号: 昭和59(オ)208 / 裁判年月日: 昭和59年10月4日 / 結論: 棄却
商法(昭和五六年法律第七四号による改正前のもの)二六六条の三第一項の規定に基づく取締役の損害賠償については民法七二二条二項の適用がある。