一、商法二六六条ノ三第一項前段の規定は、株式会社の取締役が悪意または重大な過失により会社に対する義務に違反し、よつて第三者に損害を被らせたときは、取締役の任務塀怠の行為と第三者の損害との間に相当の因果関係があるかぎり、会社が右任務解怠の行為によつて損害を被つた結果、ひいて第三者に損害を生じた場合であると、直接第三者が損害を被つた場合であるとを問うことなく、当該取締役が直接第三者に対し損害賠償の責に任ずべきことを定めたものである。 二、株式会社の代表取締役が、他の代表取締役その他の者に会社業務の一切を任せきりにし、その業務執行になんら意を用いないで、ついにはそれらの者の不正行為ないし任務僻怠を看過するにいたるような場合には、みずからもまた悪意または重大な過失により任務を怠つたものと解すべきである。
一、商法二六六条ノ三第一項前段の法意 二、株式会社の代表取締役が他の代表取締役その他の者に会社業務の一切を任せきりにした場合と任務の解怠
商法266条ノ3,商法261条,商法266条
判旨
取締役が職務執行上の悪意または重大な過失により任務を怠り、第三者に損害を生じさせたときは、任務懈怠と損害との間に相当因果関係がある限り、直接損害か間接損害かを問わず、第三者に対して直接の損害賠償責任を負う。また、他の代表取締役に業務を任せきりにしてその不正行為や任務懈怠を看過した場合も、自ら悪意または重大な過失により任務を怠ったものと解される。
問題の所在(論点)
1. 旧商法266条ノ3第1項(現行会社法429条1項)に基づく取締役の第三者に対する責任の性質。2. 第三者が被った「間接損害」も同条の賠償範囲に含まれるか。3. 他の代表取締役に業務を任せきりにし、その不正行為を看過した代表取締役の責任の有無。
規範
1. 会社法429条1項(旧商法266条ノ3第1項)の責任は、株式会社の経済的地位と取締役の職務執行への依存性を考慮し、第三者保護の観点から認められた法的責任である。2. 取締役において悪意または重大な過失により会社に対する義務(善管注意義務・忠実義務)に違反し、これと相当因果関係のある損害を第三者に生じさせたときは、直接損害・間接損害を問わず賠償責任を負う。3. 代表取締役は会社業務全般を執行すべき義務を負うため、他の代表取締役等に業務を任せきりにして不正行為を看過する等、監視・監督を著しく怠った場合も、悪意または重大な過失による任務懈怠に該当する。
重要事実
被告(上告人)は、知人から名前だけ貸してくれればよいと頼まれ、資金繰りの悪化した訴外会社の代表取締役社長に就任した。被告は社長印や氏名のゴム印を他の代表取締役Eに預け、業務一切を任せきりにして、自らは週に数回程度しか出社せず、業務執行を全く監視していなかった。Eは、支払不能を予見できたにもかかわらず、被告名義の約束手形を振り出して原告(被上告人)から鋼材を買い入れ、手形が不渡りとなったため原告に損害を与えた。原告が、被告の任務懈怠(監視義務違反)を理由に、当時の商法266条ノ3第1項に基づき損害賠償を求めた事案である。
あてはめ
1. 取締役の対会社関係での任務懈怠(善管注意義務違反)について悪意または重過失が認められれば、第三者に対する故意・過失を別途立証せずとも本条の責任が成立する。2. 本件において、代表取締役である被告は、対内的に業務全般を執行・監督すべき立場にありながら、印章を預けて業務一切をEに任せきりにし、Eの不正な手形振出や任務懈怠を看過した。3. このような放置行為は、代表取締役としての注意義務を著しく欠くものであり、会社に対する任務懈怠について「重大な過失」があるといえる。4. 当該任務懈怠によりEの不正行為が防止されず、結果として原告が代金回収不能という損害を被った以上、任務懈怠と損害との間には相当因果関係が認められる。
結論
被告は、代表取締役としての任務懈怠について重大な過失があり、これにより原告が被った損害を賠償する責任を負う。上告棄却。
実務上の射程
本判決は「法定責任説」を確立したリーディングケースであり、責任の性質を不法行為責任の特則と位置づける。答案上は、①任務懈怠(善管注意義務・監視義務違反)、②悪意・重過失、③相当因果関係のある損害(直接・間接を問わない)の3要件を検討する。特に「名ばかり取締役」であっても監視義務違反による重過失が認められ得る点に注意が必要である。
事件番号: 昭和39(オ)244 / 裁判年月日: 昭和42年3月7日 / 結論: 棄却
甲株式会社の代表取締役乙が原判示の事情(原判決理由参照)のもとで丙から金銭を奪取した場合には、乙は、商法第二六六条ノ三第一項の規定により、丙に対してその被つた損害の賠償をする義務を負う。