有限会社の代表取締役が、経営の一切を他の取締役に一任しみずから会社の経営に関与しなかつた場合において、会社の取引先が取引に関して損害を被つたとしても、その損害が経営を一任された取締役の悪意または重大な過失による任務懈怠によつて生じたものでないときは、右代表取締役の任務懈怠と右取引先の損害との間には相当因果関係を欠き、代表取締役は、右取引先に対し、有限会社法三〇条ノ三第一項に基づく損害賠償の義務を負うものではない。
有限会社法三〇条ノ三第一項の取締役の第三者に対する責任に関し代表取締役の任務懈怠と第三者の被つた損害との間に相当因果関係がないとされた事例
有限会社法30条ノ3,商法266条ノ3
判旨
名目的な代表取締役であっても任務懈怠責任を負うが、損害賠償が認められるには任務懈怠と第三者の損害との間に相当因果関係が必要である。具体的には、業務を独占した他の取締役が対第三者関係で任務懈怠を構成しない場合、監視を怠った名目的取締役の責任を問うことはできない。
問題の所在(論点)
代表取締役が名目的に就任し業務を他の取締役に一任していた場合において、当該他の取締役に故意・重過失による任務懈怠が認められないとき、名目的代表取締役の監視懈怠と第三者の損害との間に相当因果関係が認められるか(旧有限会社法30条の3、現行会社法429条1項)。
規範
1. 代表取締役は、その地位の重要性に鑑み、他の者に業務を任せきりにして不正を看過した場合には、会社法429条1項(旧商法266条の3)の「悪意又は重大な過失」による任務懈怠が認められる。2. もっとも、同責任の追及には任務懈怠と損害との間に相当因果関係が必要である。3. 業務を担当した取締役が任務懈怠(会社法429条1項の要件)を欠く結果、責任を負わない場合には、その者が担当した取引から生じた損害と、業務に関与しなかった他の取締役の任務懈怠(監視懈怠)との間には、相当因果関係を認めることはできない。
重要事実
訴外会社の代表取締役であった被上告人は、対外的信用を得るために名目的に就任したに過ぎず、経営の実権はすべて取締役Dに包括的に委ねていた。Dは独断専行で業務を行っていたが、上告人(第三者)が取引により被った損害について、D自身の放漫経営等が直ちに故意・重過失による任務懈怠とは認められない状況にあった。上告人は、監視を怠った被上告人に対し、損害賠償を求めて提訴した。
あてはめ
被上告人は代表取締役でありながら、一切の業務をDに任せきりにして関与しなかった点において、任務懈怠(監視懈怠)が認められる。しかし、本件の直接的な損害はDの業務執行から生じたものであるところ、Dには故意・重過失による任務懈怠があったとは認められない。このように現実の業務担当者が損害賠償責任を負うべき要件を欠く場合、単にその監視を怠っただけの者に責任を負わせることは、損害発生の機序からみて条理上是認できない。したがって、被上告人の監視懈怠と上告人の損害との間には、責任を帰せしめるための相当性が欠如しているといえる。
結論
被上告人の任務懈怠と損害との間には相当因果関係が認められないため、上告人の請求は認められない。
実務上の射程
「名目的取締役の監視義務」の論点において、任務懈怠(故意・重過失)が認められた後の「相当因果関係」の検討ステップとして用いる。実務上、業務執行者の行為自体が429条1項の責任を構成しない限り、監視懈怠のみを理由に損害賠償を認めることは困難であることを示している。
事件番号: 昭和39(オ)1175 / 裁判年月日: 昭和44年11月26日 / 結論: 棄却
一、商法二六六条ノ三第一項前段の規定は、株式会社の取締役が悪意または重大な過失により会社に対する義務に違反し、よつて第三者に損害を被らせたときは、取締役の任務塀怠の行為と第三者の損害との間に相当の因果関係があるかぎり、会社が右任務解怠の行為によつて損害を被つた結果、ひいて第三者に損害を生じた場合であると、直接第三者が損…