一 農業協同組合の監事が組合を代表して理事に対する訴訟を提起する場合には、組合規約中の訴訟の提起に理事会の決議を要する旨の規定は適用されない。 二 農業協同組合と理事との間の訴訟の係属中に理事がその地位を失っても、監事は、当該訴訟において組合を代表する。
一 農業協同組合の監事が組合を代表して理事に対してする訴訟の提起と組合規約中の訴訟の提起に理事会の決議を要する旨の規定の適用の有無 二 農業協同組合と理事との間の訴訟の係属中に理事がその地位を失った場合における当該訴訟での監事の代表権の消長
民訴法58条,商法275条ノ4,民法53条,農業協同組合法(平成4年法律第56号による改正前のもの)29条,農業協同組合法(平成4年法律第56号による改正前のもの)33条,農業協同組合法39条2項
判旨
農業協同組合と理事との間の訴訟において、監事は訴訟提起の決定権限を有し、理事会決議は不要である。また、訴訟継続中に理事が退任しても、監事の代表権は消滅せず、後続の訴訟行為を適法に行うことができる。
問題の所在(論点)
①組合が理事を提訴する場合に、理事会決議が必要か。②訴訟継続中に被告理事が退任した場合、監事の代表権は消滅するか。③代表権のない者(代表理事)によってなされた訴訟行為は、後に監事が選任した弁護士の訴訟行為により追認されるか。
規範
旧農業協同組合法33条後段(及び商法275条ノ4前段準用)の趣旨は、理事同士のなれ合いによる組合の利益侵害を防止することにある。したがって、監事は単なる訴訟行為の権限のみならず、訴えを提起するか否かの決定権限も有する。また、なれ合い防止の趣旨が容易に潜脱されるのを防ぐため、訴訟継続中に理事がその地位を失ったとしても、監事の代表権は当然には消滅しない。
重要事実
被上告組合の監事Dが、当時の理事であった上告人に対し、任務懈怠に基づく損害賠償請求訴訟を提起した。組合規約では訴訟提起に理事会決議を要するとされていたが、本件では監事の判断で提訴された。訴訟が第一審に係属中、上告人は理事を退任した。控訴審では当初代表理事が組合を代表していたが、結審前に監事Fが弁護士に訴訟委任を行い、当該弁護士が本案について弁論を行った。
あてはめ
①監事の訴追決定権を認める法の趣旨に照らせば、理事会決議を要する旨の規約は本件のような理事に対する訴訟には適用されない。したがって、理事会決議がなくても提訴は適法である。②理事退任後もなれ合い防止の必要性は継続するため、監事の代表権は存続する。③本件では、理事退任後に代表理事が組合を代表して行った訴訟行為が存在するが、その後、適法な代表権を有する監事Fから委任を受けた弁護士が本案について弁論を行っている。この行為により、それまでの不適法な訴訟行為は追認されたといえる。
結論
監事による提訴は理事会決議がなくとも適法であり、理事退任後も監事の代表権は維持される。不備があった訴訟行為も適法な代表権に基づく弁論により追認され、本件訴訟行為は全体として適法である。
実務上の射程
会社法386条1項1号・2項1号等における監査役の代表権の範囲にも妥当する。法人が役員を訴える場面で、被告役員の影響下にある取締役会等の決議を待たずに監事・監査役が独断で提訴できる点、及び被告の退任によって代表権が取締役に戻らない(逆流しない)点を論証する際に用いる。
事件番号: 平成19(受)1503 / 裁判年月日: 平成21年11月27日 / 結論: 破棄自判
農業協同組合の代表理事が,補助金の交付を受けることにより同組合の資金的負担のない形で堆肥センター建設事業を進めることにつき理事会の承認を得たにもかかわらず,補助金の交付申請につき理事会に虚偽の報告をするなどして同組合の費用負担の下で同事業を進めた場合において,代表理事が,(1)理事会において,それまでの説明に出ていなか…