1 農業協同組合の理事に対する代表訴訟を提起しようとする組合員が,同組合の代表者として監事ではなく代表理事を記載した提訴請求書を同組合に送付した場合であっても,監事において,上記請求書の記載内容を正確に認識した上で当該理事に対する訴訟を提起すべきか否かを自ら判断する機会があったときは,上記組合員が提起した代表訴訟を不適法として却下することはできない。 2 農業協同組合の合併契約に,被合併組合の貸借対照表等に誤びゅう脱落等があったために新設組合が損害を受けたときは,そのことに故意又は重過失のある被合併組合の役員個人が賠償責任を負う旨の条項が含まれている場合,被合併組合の理事会に出席して上記契約の締結に賛成した理事又はこれに異議を述べなかった監事は,個人として上記条項に基づく責任を負う旨の意思表示をしたものとして,新設組合との関係で,上記責任を免れない。 3 農業協同組合の合併契約中の,被合併組合の貸借対照表等に誤びゅう脱落等があったために新設組合が損害を受けたときは,そのことに故意又は重過失のある被合併組合の役員個人が賠償責任を負う旨の条項は,次の(1),(2)などの判示の事実関係の下では,被合併組合において,不良債権が適正に評価されておらず,貸倒引当金が過少に計上されていることが判明したときには,過少に計上したことに故意又は重過失のある被合併組合の理事及び監事に対して,引当不足額相当額を新設組合にてん補する義務を負わせる趣旨を含むものと解される。 (1) 上記契約は,新設組合に引き継がれる被合併組合の財産が貸借対照表等どおりのものであることを前提とするものであり,被合併組合の総会では,不良債権であるのに,そうでないように見せ掛けるなどした場合に,被合併組合の役員が上記条項に基づく責任を負うことになるなどの説明がされている。 (2) 被合併組合及び新設組合では,不良債権を適正に評価し,必要な貸倒引当金を計上し,自己資本比率の維持,向上を図っていくことが重要な課題となっていた。
1 農業協同組合の理事に対する代表訴訟を提起しようとする組合員が,同組合の代表者として監事ではなく代表理事を記載した提訴請求書を同組合に送付したが,監事において,当該理事に対する訴訟を提起すべきか否かを自ら判断する機会があった場合における,上記組合員の提起した代表訴訟の適法性 2 農業協同組合の合併契約に,被合併組合の貸借対照表等に誤びゅう等があったため新設組合が損害を受けたときは故意又は重過失のある被合併組合の役員個人が賠償責任を負う旨の条項がある場合,被合併組合の理事会で上記契約の締結に賛成した理事等は上記条項に基づく責任を負うか 3 農業協同組合の合併契約中の,被合併組合の貸借対照表等に誤びゅう等があったため新設組合が損害を受けたときは故意又は重過失のある被合併組合の役員個人が賠償責任を負う旨の条項が,被合併組合に貸倒引当金の過少計上があったときには,故意又は重過失のある被合併組合の役員に引当不足額相当額をてん補する義務を負わせる趣旨を含むとされた事例
(1につき)農業協同組合法(平成17年法律第87号による改正前のもの)39条1項,農業協同組合法(平成17年法律第87号による改正前のもの)39条2項,商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)267条1項,商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)267条3項,商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)275条ノ4,会社法386条2項1号,会社法847条1項,会社法847条3項 (2,3につき)民法第3編第2章 契約
判旨
農協役員への提訴請求で監事宛てではなく代表理事宛ての書面を送付した場合でも、監事に判断機会があれば適法な提訴請求とみなされる。また、合併契約の賠償条項は、賛成した役員個人と承継組合間の合意として有効であり、貸倒引当金の不足自体を損害として補填義務を負わせる趣旨と解される。
問題の所在(論点)
1. 提訴請求において代表者として監事ではなく代表理事を記載した場合の適法性。2. 合併組合間の契約である賠償条項に基づき、非当事者である役員個人に責任を追及できるか。3. 貸倒引当金の過少計上が「新組合の損害」に当たるか。
規範
1. 組合員代表訴訟の提訴請求は、監事が当該請求内容を正確に認識し、自ら提訴の可否を判断する機会があったといえるときは、代表者として監事が記載された適式な請求があったものと同視できる。2. 合併契約上の役員賠償条項は、同条項を含む契約締結に賛成した役員が、代表理事を介して個人として責任を負う意思表示をし、組合がこれを承諾したものと認められ、特約としての合意が成立する。3. 同条項における「損害」とは、資産流出等の具体的損害に限らず、財務の健全性確保の観点から、貸倒引当金の不足額を補填させる趣旨を含むと解すべきである。
重要事実
A農協を含む4組合が新設合併してB農協を設立する際、合併契約に「故意・重過失による財務諸表の誤り等で新組合が損害を受けた際、当該役員が個人で連帯賠償責任を負う」旨の条項(本件賠償条項)が設けられた。合併後、A農協の貸倒引当金が約3.8億円不足していることが判明。組合員Xらが代表訴訟を提起したが、提訴請求書に代表者として監事ではなく代表理事を記載していたこと、及び役員個人は契約当事者ではないこと等が争点となった。
あてはめ
1. 提訴請求について、B農協の代表理事は理事会で請求書を読み上げ、監事出席の下で審議している。よって監事には判断機会があり、適式な請求と同視できる。2. 被告役員らは本件賠償条項の内容を承知した上で合併契約締結に賛成し、代表理事に手続を委ねているから、代表理事を介して個人責任を負う旨の意思表示をしたと認められる。3. 金融機関である農協において自己資本比率の維持は重要であり、不良債権の適正評価は正確な財務状況の担保に不可欠である。具体的資産流出がなくとも、引当不足額をてん補させるのが当事者の合理的意思である。
結論
1. 代表理事宛ての請求であっても、監事に判断機会があれば提訴請求は適法である。2. 合併契約に賛成した役員は本件賠償条項に基づき個人責任を負う。3. 貸倒引当金の不足額は本件条項の「損害」に含まれる。
実務上の射程
代表訴訟の前置手続(提訴請求)における代表者記載の誤りを救済する実務上の指針となる。また、合併時の役員の個人責任に関する特約について、契約当事者性の有無を「代表理事を通じた意思表示」の構成で肯定した点、および引当金不足を「損害」と認定した点は、金融機関の合併実務において極めて重要な射程を持つ。
事件番号: 平成9(オ)1218 / 裁判年月日: 平成9年12月16日 / 結論: 棄却
一 農業協同組合の監事が組合を代表して理事に対する訴訟を提起する場合には、組合規約中の訴訟の提起に理事会の決議を要する旨の規定は適用されない。 二 農業協同組合と理事との間の訴訟の係属中に理事がその地位を失っても、監事は、当該訴訟において組合を代表する。