農業協同組合の代表理事は,過去において組合の理事であったが訴え提起時においてその地位にない者に対して組合が提起する訴えについて,組合を代表する権限を有する。
農業協同組合が退任した理事に対して提起する訴えについての組合の代表理事の代表権の有無
商法78条1項,商法261条3項,商法275条ノ4,農業協同組合法39条2項,民訴法37条
判旨
農業協同組合が退任した理事に対し、その在職中の行為について損害賠償を請求する訴訟において、代表理事は組合を代表する権限を有する。商法275条ノ4前段(現行会社法386条1項等)の準用において、退任理事は「理事」に含まれず、代表理事の代表権は否定されない。
問題の所在(論点)
退任した理事に対する責任追及の訴えにおいて、代表理事が組合を代表して訴訟を提起・追行する権限を有するか。商法275条ノ4前段(農協法39条2項準用)の「理事」に退任理事が含まれるか、および代表理事の代表権が否定されるかが問題となる。
規範
商法275条ノ4前段(農業協同組合法39条2項で準用)の規定は、会社・理事間の「なれ合い訴訟」を防止する趣旨の特則であり、同条にいう「理事」とは訴え提起時にその地位にある者を指し、退任理事は含まれない。したがって、同条前段は代表理事の代表権を否定するものではなく、代表理事は退任理事に対する訴訟において組合を代表する権限を有する。なお、同条後段(提訴請求等)の趣旨から監事にも代表権が認められ得るが、それは代表理事の代表権を排除するものではない。
重要事実
上告人は旧組合の専務理事を務めていたが、旧組合は定款で認められていない株式投資信託を購入し損失を出した。旧組合は、上告人の退任後、理事としての善管注意義務違反等を理由に損害賠償請求訴訟を提起した。本件訴訟は、旧組合の代表理事(および合併後の新組合の代表理事)を代表者として提起・追行されたが、上告人は「退任理事との訴訟において組合を代表すべきは監事である」と主張し、代表権の欠如を争った。
あてはめ
まず、商法275条ノ4前段の「理事」に退任理事を含めることは文理上困難であり、退任理事との間では現職理事ほど「なれ合い」により組合の利益を害する蓋然性が高いとはいえない。そのため、同条前段は退任理事に対する訴訟において代表理事の代表権を否定する特則とはならない。次に、同条後段の趣旨から監事が退任理事への訴訟を代表する権限を推知し得るとしても、それは代表理事の権限を否定する明文がない以上、競合的に権限を認めるに留まり、代表理事の代表権を奪うものではないと評価される。
結論
農業協同組合の代表理事は、組合が退任した理事に対して提起する訴えについて、組合を代表する権限を有する。本件訴訟の提起・追行に授権の欠陥はない。
実務上の射程
会社法386条1項・2項の下でも、退任取締役に対する責任追及訴訟において代表取締役が代表権を保持することを確認する際の有力な準拠となる。監事(監査役)の代表権と代表理事(代表取締役)の代表権が併存し得る点に実務上の意義がある。
事件番号: 平成20(受)442 / 裁判年月日: 平成21年3月31日 / 結論: その他
1 農業協同組合の理事に対する代表訴訟を提起しようとする組合員が,同組合の代表者として監事ではなく代表理事を記載した提訴請求書を同組合に送付した場合であっても,監事において,上記請求書の記載内容を正確に認識した上で当該理事に対する訴訟を提起すべきか否かを自ら判断する機会があったときは,上記組合員が提起した代表訴訟を不適…