新証拠によるMCT118型鑑定の証明力減殺は,同鑑定の手法が改善されたことによるものであるのに対し,HLADQα型鑑定並びにミトコンドリアDNA型鑑定及びHLADQB型鑑定の証明力は,鑑定資料のDNA量や状態の不良,更にはこれらの鑑定自体の特性等に基づいて評価されるべきものであって,MCT118型鑑定の証明力減殺が,HLADQα型鑑定並びにミトコンドリアDNA型鑑定及びHLADQB型鑑定の証明力に関する評価を左右する関係にあるとはいえないから,それらの再評価を要することになるものではなく,原々決定がこれらの鑑定の証明力を再評価しなかったことに誤りはない旨判示した原決定の判断は正当である。
新証拠による旧証拠の証明力減殺が,他の旧証拠の証明力に関する評価を左右する関係にあるとはいえず,それらの再評価を要することになるものではないとされた事例
刑訴法435条6号
判旨
再審請求において、新証拠の提出により特定の旧証拠(MCT118型DNA鑑定)の証明力が減殺された場合であっても、他の鑑定(HLADQα型等)の証明力が鑑定資料の状態や鑑定自体の特性に基づき評価されるべき性質のものであるときは、必ずしも再評価を要しない。また、証明力が減殺された証拠を除外した残りの情況証拠のみで、依然として被告人が犯人であることについて合理的な疑いを超えた立証がなされていると認められる場合には、再審を開始すべき「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」(刑訴法435条6号)には当たらない。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法435条6号。新証拠により一部の鑑定結果の証明力が減殺された場合、それと立証命題を同じくする他の旧証拠(鑑定等)を当然に再評価すべきか。また、一部の情況証拠が揺らいだ場合、残りの情況証拠による有罪認定の可否が問われた。
規範
再審請求における「証拠の明白性」の判断は、新証拠と確定判決の証拠(旧証拠)とを総合的に評価し、新証拠によって確定判決の有罪認定に合理的な疑いが生じるか否かという観点から行われる(白鳥・財田川決定の法理)。その際、新証拠によって特定の旧証拠の証明力が減殺された場合でも、その影響が及ばない他の旧証拠については、必ずしも再評価を要するものではなく、残存する情況証拠の総合評価によって有罪認定が維持されるかを判断する。
事件番号: 令和5(し)412 / 裁判年月日: 令和7年2月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】再審請求における新証拠が「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」(刑訴法435条6号)に当たるかは、新旧全証拠を総合評価して判断すべきであるが、本件の臨床医学的鑑定や供述分析鑑定は、確定判決の認定に合理的な疑いを生じさせるほどの証明力を持たない。 第1 事案の概要:被告人Aらは、被害者Dを窒息死させて死…
重要事実
本件は、女児2名に対する略取・殺害・死体遺棄事件(飯塚事件)の再審請求である。確定判決は、(1)目撃供述に合致する特徴的な車両の所有、(2)被害者着衣に付着したシート繊維の類似性、(3)車内から被害者と同型の血痕・尿痕の検出、(4)科警研によるDNA型(MCT118型等)および血液型の一致、(5)アリバイの不存在等の情況証拠を総合して有罪を認定した。これに対し、再審請求人は、MCT118型鑑定の精度を否定する新鑑定等を提出し、これに伴い連鎖的に他のDNA鑑定等の証明力も再評価されるべきであり、それらを除けば有罪認定は崩れると主張した。
あてはめ
まず、MCT118型鑑定については手法の改善により証明力が減殺されたと認められる。しかし、HLADQα型やミトコンドリアDNA鑑定等の他の鑑定の証明力は、鑑定資料のDNA量や状態の不良、鑑定自体の特性等に基づき独立して評価されるべき性質のものである。したがって、MCT118型の証明力減殺が直ちにこれら他鑑定の再評価を左右する関係にはない。次に、仮にMCT118型鑑定の結果を排除したとしても、目撃供述と事件本人の車両・土地勘の一致、車内からの血痕・尿痕の検出、繊維片の酷似といった他の情況事実は各々独立した証拠により認められる。これらを総合すれば、依然として被告人が犯人であることに合理的な疑いを超える高度の立証が維持されていると評価できる。
結論
新証拠は確定判決の認定に合理的な疑いを生じさせるものとはいえず、再審請求棄却を維持した原決定は正当である。
実務上の射程
複数の情況証拠が重畳的に存在する事案において、その一部(特にDNA鑑定)が新証拠により揺らいだとしても、残る情況証拠群が強固であれば、有罪認定の合理的な疑いは生じないとする判断手法を示した。
事件番号: 平成30(し)146 / 裁判年月日: 令和元年6月25日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】再審請求において提出された法医学鑑定(新証拠)が、死体の腐敗等の制約により決定的な証明力を有しない場合には、確定判決を支えた他の証拠の証明力と対比・総合評価すべきであり、直ちに「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」には当たらない。 第1 事案の概要:請求人は、夫らと共謀して親族を絞殺し死体を遺棄したと…
事件番号: 平成30(し)147 / 裁判年月日: 令和元年6月25日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】再審請求における「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」の判断にあたっては、新証拠の証明力に限界がある場合、確定判決を支える他の客観的証拠や供述証拠の信用性と対比し、総合的に評価すべきである。 第1 事案の概要:申立人らは、確定判決(絞殺および死体遺棄)に対し、法医学者の新鑑定(O鑑定)等を新証拠として…
事件番号: 平成7(し)49 / 裁判年月日: 平成10年10月27日 / 結論: 棄却
一 確定判決が科刑上一罪として処断した一部の罪について無罪とすべき明らかな証拠を新たに発見した場合は、その罪が最も重い罪ではないときであっても、刑訴法四三五条六号の再審事由に該当する。 二 確定判決が詳しく認定判示した犯行の態様の一部に事実誤認のあることが判明した場合であっても、そのことにより罪となるべき事実の存在に合…
事件番号: 平成27(し)587 / 裁判年月日: 平成29年12月25日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】再審請求における「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」(刑訴法435条6号)の判断に際し、確定判決の主要な供述を翻す新供述が提出された場合は、その変遷の経緯、内容の合理性、及び確定判決を支えた他の客観的証拠との整合性を慎重に吟味すべきであり、これらを欠く新供述は「明白な証拠」に当たらない。 第1 事案…