陳述書等の新証拠が無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たるとして再審開始の決定をした原判断に刑訴法435条6号の解釈適用を誤った違法があるとされた事例
刑訴法411条1号,刑訴法426条1項,刑訴法426条2項,刑訴法434条,刑訴法435条6号,刑訴法448条1項
判旨
再審請求における「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」(刑訴法435条6号)の判断に際し、確定判決の主要な供述を翻す新供述が提出された場合は、その変遷の経緯、内容の合理性、及び確定判決を支えた他の客観的証拠との整合性を慎重に吟味すべきであり、これらを欠く新供述は「明白な証拠」に当たらない。
問題の所在(論点)
確定判決の有罪認定の核心となった共犯者の供述を全面的に否定する「翻転供述」がなされた場合、刑訴法435条6号の「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に該当するか。特に、その信用性判断において何を重視すべきか。
規範
刑訴法435条6号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」(証拠の明白性)があるか否かは、新証拠と確定判決の証拠とを総合的に評価して判断すべきである。特に、確定審の供述者がその内容を翻す「新供述」を提出した場合、その供述が確定判決の信用性を動揺させるに足りるかは、供述変更に至った経緯・過程の合理性、内容の具体的再現性、及び確定判決の証拠構造(他の補強証拠との矛盾の有無)を慎重に吟味して判断しなければならない。
重要事実
請求人は、A・Bと共謀し、会社財産の差押えを免れるため営業譲渡を装ったとして強制執行妨害目的財産隠匿罪で有罪が確定した。確定判決の主たる証拠は、請求人の関与を認める共犯者Aの公判供述であった。その後、請求人はAによる「財産隠蔽を教えたのは税理士であり、請求人を主犯にすれば自分の罪が軽くなると思って虚偽を述べた」とする翻転供述(A新供述)を新証拠として再審を請求。原審は、A新証言の心理的自然性や、偽証罪の危険を冒して供述している点等を重視し、再審開始を決定した。
事件番号: 平成7(し)49 / 裁判年月日: 平成10年10月27日 / 結論: 棄却
一 確定判決が科刑上一罪として処断した一部の罪について無罪とすべき明らかな証拠を新たに発見した場合は、その罪が最も重い罪ではないときであっても、刑訴法四三五条六号の再審事由に該当する。 二 確定判決が詳しく認定判示した犯行の態様の一部に事実誤認のあることが判明した場合であっても、そのことにより罪となるべき事実の存在に合…
あてはめ
まず、A新供述は作成過程や経緯に関する説明が変遷しており、新証人尋問での再現性も低く、真に記憶に基づくものか疑わしい。次に、虚偽供述の動機として「裁判官からの断定的質問」や「請求人への恨み」を挙げるが、当時の状況(既に税理士が死亡しており責任転嫁が容易であったこと等)に照らし不自然である。さらに、確定判決においてAの旧供述を強く補強していた「本件覚書」の記載(請求人の仲介を示唆する内容)や、先行する仮装譲渡計画に関する「Dの証言」との矛盾を合理的かつ説得的に説明できていない。これらを総合すると、A新供述は旧供述の信用性を動揺させるに足りるものではない。
結論
A新供述は「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」とは認められず、再審開始を認めた原決定には刑訴法435条6号の解釈適用の誤りがある。原決定を取り消し、再審請求を棄却する。
実務上の射程
白鳥・財田川決定以降の「新旧証拠の総合評価」の枠組みを維持しつつ、特に翻転供述の信用性判断において「変遷の合理性」と「確定判決時の客観的・補強的証拠との整合性」を厳格に要求する実務上の指針を示した。答案上は、単に「新証拠が出た」ことのみならず、旧証拠の証拠構造を破壊し得るほどに合理的かという視点で事実評価を行う際に引用すべきである。
事件番号: 平成28(し)639 / 裁判年月日: 平成29年3月31日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】再審請求において、確定判決の証拠関係を覆すような新証拠(供述録取書等)が提出された場合、裁判所は、単に書面の内容のみからその信用性を肯定して再審を開始するのではなく、事実取調べ(証人尋問等)を通じて新証拠の作成経緯や客観的証拠との整合性を十分に吟味すべきであり、これを怠って再審開始を認めることは審…
事件番号: 平成30(し)147 / 裁判年月日: 令和元年6月25日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】再審請求における「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」の判断にあたっては、新証拠の証明力に限界がある場合、確定判決を支える他の客観的証拠や供述証拠の信用性と対比し、総合的に評価すべきである。 第1 事案の概要:申立人らは、確定判決(絞殺および死体遺棄)に対し、法医学者の新鑑定(O鑑定)等を新証拠として…
事件番号: 平成30(し)146 / 裁判年月日: 令和元年6月25日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】再審請求において提出された法医学鑑定(新証拠)が、死体の腐敗等の制約により決定的な証明力を有しない場合には、確定判決を支えた他の証拠の証明力と対比・総合評価すべきであり、直ちに「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」には当たらない。 第1 事案の概要:請求人は、夫らと共謀して親族を絞殺し死体を遺棄したと…
事件番号: 令和5(し)412 / 裁判年月日: 令和7年2月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】再審請求における新証拠が「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」(刑訴法435条6号)に当たるかは、新旧全証拠を総合評価して判断すべきであるが、本件の臨床医学的鑑定や供述分析鑑定は、確定判決の認定に合理的な疑いを生じさせるほどの証明力を持たない。 第1 事案の概要:被告人Aらは、被害者Dを窒息死させて死…