陳述書等の新証拠が無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たるとして再審開始の決定をした原審の手続に審理不尽の違法があるとされた事例
刑訴法411条1号,刑訴法426条2項,刑訴法434条,刑訴法435条6号,刑訴法448条1項
判旨
再審請求において、確定判決の証拠関係を覆すような新証拠(供述録取書等)が提出された場合、裁判所は、単に書面の内容のみからその信用性を肯定して再審を開始するのではなく、事実取調べ(証人尋問等)を通じて新証拠の作成経緯や客観的証拠との整合性を十分に吟味すべきであり、これを怠って再審開始を認めることは審理不尽の違法にあたる。
問題の所在(論点)
確定判決において自白や客観的証拠(診断書等)が存在する場合に、それらを全面的に否定する新証拠(供述書)のみに基づいて事実取調べを行わずに再審開始を認めることが、審理不尽として許されるか。
規範
刑事訴訟法435条6号の「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」にあたるか否かの判断(明白性)は、新証拠と確定判決の証拠を総合的に評価してなされる。特に、確定判決の主要な証拠(自白や診断書等)を否定する内容の供述書が提出された場合、その供述が具体的であるというのみならず、作成の経緯、動機、他の客観的事実や証拠との整合性を厳格に吟味しなければならない。書面のみでその信用性を判断することが困難な場合には、事実の取調べ(同法445条)を行い、慎重に判断枠組みを構築すべきである。
重要事実
請求人は、元妻Aに対する暴行・傷害罪で罰金刑の略式命令を受け確定した。確定判決では、Aの供述調書、医師の診断書、請求人の自白調書のほか、請求人が事件直後にAの父へ謝罪した事実を記した捜査報告書が存在した。その後、請求人は「実は暴行も怪我も虚偽であり、離婚を有利に進めるための捏造だった」とするAの陳述書を新証拠として再審請求した。原審は、陳述書が具体的であり、Aが謝罪として100万円支払う調停が成立していること等を理由に、事実取調べを行わず陳述書の信用性を高く評価し、再審開始を決定した。
事件番号: 平成27(し)587 / 裁判年月日: 平成29年12月25日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】再審請求における「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」(刑訴法435条6号)の判断に際し、確定判決の主要な供述を翻す新供述が提出された場合は、その変遷の経緯、内容の合理性、及び確定判決を支えた他の客観的証拠との整合性を慎重に吟味すべきであり、これらを欠く新供述は「明白な証拠」に当たらない。 第1 事案…
あてはめ
本件陳述書の内容は、請求人の捏造主張と必ずしも整合せず、養育費争いの最中に突然謝罪に転じた点は不自然である。また、「医師に頼んで虚偽の診断書を作成させた」との主張も客観的裏付けがなく容易に信じ難い。確定判決には自白に加え、事件直後の謝罪という強力な補強証拠が存在する。このような状況下で、Aの証人尋問や請求人尋問等を行わずに、陳述書の内容を「相当に高い」と評価して確定判決の証拠価値を否定した原審の手続は、新証拠の作成経緯等の吟味を怠ったものといえる。したがって、審理不尽の違法がある。
結論
原決定を取り消し、新証拠の信用性を吟味し直させるため、本件を原審(札幌高裁)に差し戻す。
実務上の射程
再審請求における明白性の判断において、新旧証拠の総合評価の必要性と、特に供述証拠の信用性を判断する際の事実取調べの重要性を強調した事例。
事件番号: 昭和29(し)39 / 裁判年月日: 昭和29年9月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】再審請求における「明らかな証拠をあらたに発見したとき」(刑訴法435条6号)の該否が争われた事案において、提出された証拠が確定判決を覆すべき証拠の明白性を欠く場合には再審理由に当たらないと判断した。 第1 事案の概要:再審請求人(特別抗告人)は、Aの自供書、BおよびCの各証明書を「明らかな証拠」と…
事件番号: 平成7(し)49 / 裁判年月日: 平成10年10月27日 / 結論: 棄却
一 確定判決が科刑上一罪として処断した一部の罪について無罪とすべき明らかな証拠を新たに発見した場合は、その罪が最も重い罪ではないときであっても、刑訴法四三五条六号の再審事由に該当する。 二 確定判決が詳しく認定判示した犯行の態様の一部に事実誤認のあることが判明した場合であっても、そのことにより罪となるべき事実の存在に合…
事件番号: 平成7(し)75 / 裁判年月日: 平成11年3月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】再審請求において提出された新証拠について、その明白性を否定して再審請求を棄却した原決定の判断は正当である。特別抗告における憲法違反や判例違反の主張が実質的に事実誤認や単なる法令違反にすぎない場合は、適法な抗告理由に当たらない。 第1 事案の概要:申立人は、確定判決に対する再審請求を行い、その際に新…
事件番号: 昭和31(し)11 / 裁判年月日: 昭和31年3月27日 / 結論: 棄却
刑訴四三五条六号にもとずく再審の請求にあたり、あらたに発見した証拠として証人の取調を求めている場合でも、再審の請求が理由があるかどうかを判断するためには、必ずその証人の取調をしなければならないものではないことは、当裁判所の判例とするところである。(昭和二八年(し)第一二号同年一一月二四日第三小法廷決定、集七巻一一号二二…