鑑定等の新証拠が無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たるとして再審開始の決定をした原々決定及び結論においてこれを是認した原決定にはいずれも刑訴法435条6号の解釈適用を誤った違法があるとされた事例
刑訴法411条1号,刑訴法426条2項,刑訴法434条,刑訴法435条6号,刑訴法447条1項
判旨
再審請求において提出された法医学鑑定(新証拠)が、死体の腐敗等の制約により決定的な証明力を有しない場合には、確定判決を支えた他の証拠の証明力と対比・総合評価すべきであり、直ちに「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」には当たらない。
問題の所在(論点)
死因に関する新たな法医学鑑定(O鑑定)が、確定判決の事実認定に合理的な疑いを生じさせる「明らかな証拠」といえるか。また、その評価において他の証拠との総合評価をいかに行うべきか。
規範
刑訴法435条6号の「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に当たるかは、新証拠と確定判決当時の全証拠を総合評価し、確定判決の認定に合理的な疑いを生じさせる蓋然性があるか否かで判断する。科学的知見に基づく新鑑定であっても、基礎となる情報に制約があり決定的な証明力を有しない場合は、他の証拠(共犯者の自白や目撃証言等)の証明力を十分に吟味した上での実質的な総合評価を要する。
重要事実
請求人は、夫らと共謀して親族を絞殺し死体を遺棄したとして有罪が確定した。第3次再審請求で、請求人側は「死因は窒息死ではなく転落による出血性ショックである」とする法医学鑑定(O鑑定)や、目撃証言の信用性を否定する供述心理鑑定を新証拠として提出した。原審は、O鑑定等により確定判決の死因認定や自白の信用性に合理的疑いが生じたとして再審開始を決定したが、検察官が特別抗告した。
あてはめ
O鑑定は死後相当期間経過し腐敗した死体の写真等を基礎としており、知見としての尊重は必要だが決定的な証明力はない。一方、確定判決を支える自白や目撃証言、遺体の発見状況等の客観的事実は相互に合致し、相応に強固である。O鑑定が死因の「可能性」を示すにとどまる以上、これをもって直ちに強固な自白等の信用性を根底から覆すことはできず、確定判決に合理的な疑いを生じさせる蓋然性があるとは認められない。
事件番号: 平成30(し)147 / 裁判年月日: 令和元年6月25日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】再審請求における「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」の判断にあたっては、新証拠の証明力に限界がある場合、確定判決を支える他の客観的証拠や供述証拠の信用性と対比し、総合的に評価すべきである。 第1 事案の概要:申立人らは、確定判決(絞殺および死体遺棄)に対し、法医学者の新鑑定(O鑑定)等を新証拠として…
結論
本件各新証拠は、確定判決の事実認定に合理的な疑いを抱かせるに足りる「明らかな証拠」には当たらない。再審開始を認めた原決定には刑訴法435条6号の解釈適用の誤りがあるため、これを取り消し、再審請求を棄却する。
実務上の射程
新証拠が科学的鑑定であっても、その推論の基礎(資料の質や量)に限界がある場合には、直ちに「明白性」を認めず、既存証拠の証明力の強靭さと比較衡量する実務指針を示した。白鳥・財田川裁定の「総合評価」の枠組みを維持しつつ、鑑定の「決定的な証明力」の有無を厳格に吟味する態度を示すものである。
事件番号: 令和5(し)412 / 裁判年月日: 令和7年2月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】再審請求における新証拠が「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」(刑訴法435条6号)に当たるかは、新旧全証拠を総合評価して判断すべきであるが、本件の臨床医学的鑑定や供述分析鑑定は、確定判決の認定に合理的な疑いを生じさせるほどの証明力を持たない。 第1 事案の概要:被告人Aらは、被害者Dを窒息死させて死…
事件番号: 平成30(し)76 / 裁判年月日: 令和3年4月21日 / 結論: 棄却
新証拠によるMCT118型鑑定の証明力減殺は,同鑑定の手法が改善されたことによるものであるのに対し,HLADQα型鑑定並びにミトコンドリアDNA型鑑定及びHLADQB型鑑定の証明力は,鑑定資料のDNA量や状態の不良,更にはこれらの鑑定自体の特性等に基づいて評価されるべきものであって,MCT118型鑑定の証明力減殺が,H…
事件番号: 平成27(し)587 / 裁判年月日: 平成29年12月25日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】再審請求における「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」(刑訴法435条6号)の判断に際し、確定判決の主要な供述を翻す新供述が提出された場合は、その変遷の経緯、内容の合理性、及び確定判決を支えた他の客観的証拠との整合性を慎重に吟味すべきであり、これらを欠く新供述は「明白な証拠」に当たらない。 第1 事案…
事件番号: 平成7(し)49 / 裁判年月日: 平成10年10月27日 / 結論: 棄却
一 確定判決が科刑上一罪として処断した一部の罪について無罪とすべき明らかな証拠を新たに発見した場合は、その罪が最も重い罪ではないときであっても、刑訴法四三五条六号の再審事由に該当する。 二 確定判決が詳しく認定判示した犯行の態様の一部に事実誤認のあることが判明した場合であっても、そのことにより罪となるべき事実の存在に合…