民法上の配偶者は,その婚姻関係が実体を失って形骸化し,かつ,その状態が固定化して近い将来解消される見込みのない場合,すなわち,事実上の離婚状態にある場合には,中小企業退職金共済法14条1項1号にいう配偶者に当たらない。
民法上の配偶者が中小企業退職金共済法14条1項1号にいう配偶者に当たらない場合
中小企業退職金共済法10条1項,中小企業退職金共済法14条1項,中小企業退職金共済法14条2項
判旨
中小企業退職金共済法、確定給付企業年金法及び厚生年金基金の規約に基づく遺族給付について、民法上の配偶者であっても、その婚姻関係が実体を失って形骸化し、かつ固定化して将来解消の見込みがない「事実上の離婚状態」にある場合には、受給権者である「配偶者」に該当しない。
問題の所在(論点)
中小企業退職金共済法14条1項1号、確定給付企業年金法48条1号等に規定される、退職金等の受給権者としての「配偶者」に、民法上の配偶者が「事実上の離婚状態」にある場合も含まれるか。
規範
中小企業退職金共済法等の遺族給付制度は、被共済者の収入に依拠していた遺族の生活保障を主な目的とし、家族関係の実態に即して受給権者を定める社会保障的性格を有する。したがって、受給権者たる「配偶者」とは、死亡した者と協力して社会通念上の夫婦共同生活を現実に営んでいた者を指す。よって、民法上の配偶者であっても、婚姻関係が実体を失って形骸化し、かつ、その状態が固定化して近い将来解消される見込みのない「事実上の離婚状態」にある場合には、これに当たらない。これは、他に事実婚の者が存在するか否かによって左右されない。
重要事実
AはCと婚姻し子(被上告人)を儲けたが、Cは約22年前から他女性の下で別居し、生活費も殆ど分担しなかった。Aは離婚の意思があったが子の就職への影響を懸念し手続を保留、病状悪化により離婚届作成不能のまま死亡した。死亡直前、AはCを推定相続人から排除する旨の危急時遺言をし、後に家庭裁判所で廃除の審判が確定した。被上告人は、Cは「配偶者」に該当せず、次順位の自身が退職金等の受給権を有すると主張した。
あてはめ
Cは20年以上にわたりA及び子と別居し、婚姻費用も分担せず、面会も数回に過ぎなかった。AはCとの離婚を望み、死の間際には相続人からの廃除を遺言するなど、婚姻継続の意思を完全に喪失していた。かかる事情に照らせば、AとCの婚姻関係は、Aの死亡当時、実体を失って形骸化し、かつ固定化して解消の見込みがない「事実上の離婚状態」にあったと評価される。したがって、Cは生活保障の対象となる実態を備えた「配偶者」とは認められない。
結論
Cは本件退職金等の受給権者である「配偶者」に該当しない。被上告人は次順位の受給権者として本件給付を請求できる。上告棄却。
実務上の射程
各種の社会保障的給付(遺族年金等)における「配偶者」の解釈に共通する射程を持つ。答案上は、民法上の相続とは別個の「受給権者独自の目的(生活保障的性格)」を強調し、形式的な戸籍上の記載よりも「共同生活の実態」を重視する判断枠組みとして活用すべきである。
事件番号: 平成16(行ヒ)332 / 裁判年月日: 平成17年4月21日 / 結論: 棄却
私立学校教職員共済法に基づく退職共済年金の受給権者であった男性が死亡した場合において,同男性が法律上の妻と20年以上の長期にわたり別居を続け,その間,両者の間には反復,継続的な交渉はなく,婚姻関係修復の努力もされていないなど両者の婚姻関係は実体を失って修復の余地がないまでに形がい化しており,他方,両者の別居後に同男性と…