土地の売買契約の買主は,当該売買契約において売主が負う土地の引渡しや所有権移転登記手続をすべき債務の履行を求めるための訴訟の提起・追行又は保全命令若しくは強制執行の申立てに関する事務を弁護士に委任した場合であっても,売主に対し,これらの事務に係る弁護士報酬を債務不履行に基づく損害賠償として請求することはできない。
土地の売買契約の買主が売主に対し債務の履行を求めるための訴訟の提起等に係る弁護士報酬を債務不履行に基づく損害賠償として請求することの可否
民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)415条,民法416条1項,民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)416条2項,民法555条,民法560条
判旨
土地の売買契約の買主は、売主の債務不履行に基づき、履行を求める訴訟や執行等の事務を弁護士に委任した場合であっても、その弁護士報酬を損害賠償として請求することはできない。契約上の義務の履行請求は、侵害された利益の回復ではなく契約目的の実現を求めるものであり、不法行為等とは性質を異にするためである。
問題の所在(論点)
土地売買契約の売主が債務不履行に陥った場合、買主が当該債務の履行を強制するために要した弁護士報酬について、債務不履行に基づく損害賠償請求(民法415条)が認められるか。
規範
債務不履行に基づく損害賠償として、債務の履行を求めるための訴訟の提起・追行、保全命令、強制執行の申立てに関する弁護士報酬を請求することはできない。契約当事者による履行の請求は、不法行為等とは異なり、侵害された権利利益の回復ではなく契約の目的を実現して履行による利益を得ようとするものであり、かつ、契約締結に際して任意履行がされないリスクを考慮し得るからである。また、登記や引渡し等の債務は契約から一義的に確定し、客観的事実により基礎付けられる点も考慮される。
重要事実
買主である被上告人らは、土地売買契約を締結し手付金を支払ったが、売主(本件会社)の代表者が行方不明となり、債務履行が困難となった。被上告人らは弁護士に委任し、所有権移転登記請求訴訟、建物収去土地明渡請求訴訟、処分禁止仮処分、および建物解体撤去の強制執行等(本件各事務)を行った。その後、差押債権者である上告人からの取立訴訟において、被上告人らは本件各事務に係る弁護士報酬(約972万円)等の損害賠償債権を自働債権として、売買代金債権と相殺する旨の抗弁を主張した。
あてはめ
被上告人らが弁護士に委任した本件各事務のうち、訴訟の提起・追行、保全、強制執行に関する事務は、いずれも本件売買契約に基づく債務の履行を求めるためのものである。これらは契約の目的を実現して履行利益を得ようとする行為にすぎず、不法行為のような権利利益の侵害に対する回復とは性質を異にする。また、測量等のその余の事務も買主が自ら土地を確保・利用するためのものにすぎない。したがって、これらに係る弁護士報酬は、本件会社の債務不履行と相当因果関係にある損害とはいえない。
結論
被上告人らは、本件各事務に係る弁護士報酬について損害賠償債権を有しない。したがって、当該報酬債権を自働債権とする相殺の抗弁は認められない。
実務上の射程
契約上の債務履行を求める場面(履行請求訴訟等)では、原則として相手方に弁護士報酬を転嫁できないことを明確にした判例である。不法行為(410条)や、債務不履行であっても本来の義務の履行を求めるのではなく「不当な抗争により損害を被った」といった特殊な事情がある場合を除き、履行請求に伴う費用は自己負担となるため、答案上も損害の範囲(416条)の議論で厳格に区別すべきである。
事件番号: 平成10(オ)331 / 裁判年月日: 平成13年11月27日 / 結論: 棄却
指名債権譲渡の予約についてされた確定日付のある証書による債務者に対する通知又は債務者の承諾をもって,当該予約の完結による債権譲渡の効力を第三者に対抗することはできない。