遺言者が,入院中の日に自筆証書による遺言の全文,同日の日付及び氏名を自書し,退院して9日後(全文等の自書日から27日後)に押印したなど判示の事実関係の下においては,同自筆証書に真実遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されているからといって直ちに同自筆証書による遺言が無効となるものではない。
自筆遺言証書に真実遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されているからといって同証書による遺言が無効となるものではないとされた事例
民法968条1項
判旨
自筆証書遺言において、全文・日付・氏名を自書した数日後に押印して遺言を完成させた場合、記載された日付が真実の成立日(押印日)と相違していても、直ちに遺言が無効となるものではない。
問題の所在(論点)
自筆証書遺言(民法968条1項)において、遺言者が全文・日付・氏名を自書した日と、押印して遺言を完成させた日が異なる場合、自書された日付が真実の成立日と相違することを理由に遺言は無効となるか。
規範
民法968条1項が自筆証書遺言の方式を厳格に定める趣旨は、遺言者の真意を確保し偽造・変造を防止することにある。しかし、必要以上に方式を厳格に解釈することは、かえって遺言者の真意の実現を阻害するおそれがある。したがって、自書された日付と実際の完成日(押印日)が相違する場合であっても、遺言者の真意が確保されていると認められる特段の事情がある状況下では、当該日付の相違のみをもって直ちに遺言を無効とすべきではない。
重要事実
遺言者Aは、平成27年4月13日、入院先の病院において遺言の全文、同日の日付および氏名を自書した。Aはその9日後の同年5月10日に退院し、同日、弁護士の立会いのもとで当該遺言書に押印した。Aは同年5月13日に死亡した。本件遺言書には、遺言が完成した日(押印日)である5月10日ではなく、自書した日である4月13日の日付が記載されていたため、方式違背(日付の誤り)による無効が争点となった。
事件番号: 昭和51(オ)978 / 裁判年月日: 昭和52年4月19日 / 結論: 棄却
遺言者が、遺言書のうち日附以外の全文を記載して署名押印し、その八日後に当日の日附を記載して右遺言書を完成させたときは、特段の事情のない限り、右日附を記載した日に作成された自筆証書遺言として、有効である。
あてはめ
本件では、Aが4月13日に全文・日付・氏名を自書し、そのわずか9日後の5月10日に弁護士立会いのもとで押印を行っている。遺言の成立日は完成時である5月10日と解されるため、記載された4月13日とは相違する。しかし、自書から押印までの期間が短く、弁護士の立会いという客観的な状況下で完成されていることから、遺言者の真意の確保という同条の趣旨は損なわれていない。このような事実関係の下では、日付の不一致は軽微な形式的不備に留まり、遺言を無効とするほどの重大な方式違背とはいえない。
結論
本件遺言は、真実の成立日と異なる日付が記載されていることをもって直ちに無効とはならない。
実務上の射程
自筆証書遺言の「日付」の要件に関し、真実の成立日との厳密な一致を求める従来の判例を維持しつつも、自書日と押印日が近接しているような事案において柔軟な救済を認めた。答案上は、方式不備が問題となる場面で、968条の趣旨(真意の確保)に遡り、真意の実現を阻害しない範囲で有効性を認めるべきとの文脈で使用する。
事件番号: 昭和52(オ)696 / 裁判年月日: 昭和52年11月21日 / 結論: 棄却
自筆遺言証書に記載された日付が真実の作成日付と相違しても、その誤記であること及び真実の作成の日が遺言証書の記載その他から容易に判明する場合には、遺言はこれによつて無効となるものではない。