遺言者が、遺言書のうち日附以外の全文を記載して署名押印し、その八日後に当日の日附を記載して右遺言書を完成させたときは、特段の事情のない限り、右日附を記載した日に作成された自筆証書遺言として、有効である。
数日にわたつて作成された自筆証書遺言が有効とされた事例
民法968条
判旨
自筆証書遺言において、本文・署名・捺印を終えた数日後に日付を記載して完成させることは許容され、特段の事情がない限り、その日付が記載された日に成立した遺言として有効である。
問題の所在(論点)
自筆証書遺言(民法968条1項)において、本文等の作成日と日付の記載日が異なる場合、当該遺言は有効か。また、その成立時期をいつと解すべきか。
規範
民法968条1項が自筆証書遺言に日付の自書を要求する趣旨は、遺言成立の時期を明確にすることにある。遺言者が遺言書の本文等を自書・捺印した後、後日に日付を記載して遺言書を完成させることは、法の禁じるところではない。したがって、特段の事情のない限り、当該日付が記載された日に成立した適式な遺言と解するのが相当である。
重要事実
遺言者が、自筆証書遺言の全文、氏名を自書し、印を押した。その際、日付については空欄のままであったが、その8日後に、当日の日付を記載して遺言書を完成させた。
事件番号: 平成31(受)427 / 裁判年月日: 令和3年1月18日 / 結論: 破棄差戻
遺言者が,入院中の日に自筆証書による遺言の全文,同日の日付及び氏名を自書し,退院して9日後(全文等の自書日から27日後)に押印したなど判示の事実関係の下においては,同自筆証書に真実遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されているからといって直ちに同自筆証書による遺言が無効となるものではない。
あてはめ
本件では、遺言者が本文・署名・捺印を終えた8日後に当日の日付を自書している。民法968条の趣旨は遺言の成立時期を確定させることにあり、日付の自書が本文の作成と同時であることまでを厳格に要求するものではない。本件の日付記載行為により遺言書は完成しており、その記載された日付において遺言が成立したと認められる。特段の事情(作成能力の喪失等)も認められないため、形式的要件を充足する。
結論
本件遺言は適式な自筆証書遺言として有効であり、日付が記載された日に成立したものと解される。
実務上の射程
自筆証書遺言の「作成日のズレ」に関するリーディングケース。答案では、日付自書の趣旨(遺言能力の有無、遺言の前後関係の判定)から導かれる「成立時期の明確化」という目的を重視し、日付記載により遺言が完成したといえるか否かを検討する。あてはめでは、本文作成時と日付記載時の間に遺言能力の変動がないか等、特段の事情の有無に留意して論じる。
事件番号: 昭和52(オ)696 / 裁判年月日: 昭和52年11月21日 / 結論: 棄却
自筆遺言証書に記載された日付が真実の作成日付と相違しても、その誤記であること及び真実の作成の日が遺言証書の記載その他から容易に判明する場合には、遺言はこれによつて無効となるものではない。