負担の履行期が贈与者の生前と定められた負担付死因贈与の受贈者が負担の全部又はこれに類する程度の履行をした場合には、右契約締結の動機、負担の価値と贈与財産の価値との相関関係、契約上の利害関係者間の身分関係その他の生活関係等に照らし右契約の全部又は一部を取り消すことがやむをえないと認められる特段の事情がない限り、民法一〇二二条、一〇二三条の各規定は準用されない。
負担の履行期が贈与者の生前と定められた負担付死因贈与の受贈者が負担の全部又はこれに類する程度の履行をした場合と民法一〇二二条、一〇二三条の規定の準用の有無
民法553条,民法554条,民法1022条,民法1023条
判旨
負担付死因贈与において、受贈者が生前に負担の全部又はそれに類する履行をした場合は、特段の事情がない限り、遺言の自由に関する民法1022条等の準用による一方的な取消しは認められない。
問題の所在(論点)
死因贈与には遺贈の規定が準用される(民法554条)ところ、負担付死因贈与において受贈者が既に負担を履行した場合であっても、遺言の自由(民法1022条、1023条)に基づき、贈与者は自由に契約を取り消すことができるか。
規範
負担の履行期が贈与者の生前と定められた負担付死因贈与契約に基づき、受贈者が負担の全部又はそれに類する程度の履行をした場合、原則として民法1022条、1023条を準用して取り消すことはできない。ただし、契約締結の動機、負担と贈与財産の価値の相関関係、身分関係、生活関係等に照らし、取消しをすることがやむをえないと認められる「特段の事情」がある場合に限り、全部又は一部の取消しが認められる。
重要事実
贈与者と受贈者との間で、贈与者の生前に負担を履行する旨の負担付死因贈与契約が締結された。受贈者はこの契約に基づき、約旨に従って負担を履行した(又はそれに類する履行をした)と主張している。しかし、贈与者はその後に、当該死因贈与の内容と抵触する遺言(本件遺言)を作成したため、前後の意思表示の抵触により死因贈与が取り消されたものとみなされるかが争点となった。
事件番号: 昭和46(オ)1166 / 裁判年月日: 昭和47年5月25日 / 結論: 棄却
死因贈与の取消については、民法一〇二二条がその方式に関する部分を除いて準用されると解すべきである。
あてはめ
死因贈与は贈与者の最終意思の尊重という側面を持つが、受贈者が生前負担を履行した場合には、受贈者の利益を犠牲にすることは相当ではない。本件では、受贈者が負担である債務を履行したか、および取消しをやむをえないとする特段の事情(動機や財産的均衡、身分関係等)があるかについて審理が尽くされるべきである。これらの事実を検討せず、無条件に民法1022条等を準用して取消しを認めた原審の判断は妥当ではない。
結論
受贈者が負担を履行した負担付死因贈与は、特段の事情がない限り、後の遺言によって当然に取り消されることはない。
実務上の射程
司法試験では死因贈与の撤回可能性が問われる際、本判例を基に「負担の履行」の有無で規範を使い分ける。負担がない場合は原則撤回自由だが、負担履行済みの場合は本判例の「特段の事情」を検討する枠組みを用いる。なお、本判決は「方式」に関する規定の準用は否定している点(民法1022条括弧書き参照)も併せて押さえておくべきである。
事件番号: 平成31(受)427 / 裁判年月日: 令和3年1月18日 / 結論: 破棄差戻
遺言者が,入院中の日に自筆証書による遺言の全文,同日の日付及び氏名を自書し,退院して9日後(全文等の自書日から27日後)に押印したなど判示の事実関係の下においては,同自筆証書に真実遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されているからといって直ちに同自筆証書による遺言が無効となるものではない。