少年保護事件を題材として家庭裁判所調査官が執筆した論文を雑誌及び書籍に掲載して公表した場合において,少年のプライバシーに属する情報が上記論文に含まれており,当該情報が上記少年保護事件における上記家庭裁判所調査官の調査によって取得されたものであったとしても,次の⑴~⑶など判示の事情の下においては,当該情報に係る事実を公表されない法的利益がこれを公表する理由に優越するとまではいえず,上記の公表行為は,プライバシーを侵害したものとして不法行為法上違法であるということはできない。 ⑴ 上記論文は,社会の関心を集めつつあったアスペルガー症候群の特性が非行事例でどのように現れるのか等を明らかにするという目的で執筆された。 ⑵ 上記論文の公表は,医療関係者や研究者等を読者とする専門誌や専門書籍に掲載する方法で行われた。 ⑶ 上記論文には,上記少年やその関係者を直接特定した記載部分や事実関係の時期を特定した記載部分はなかった。 (意見がある。)
少年保護事件を題材として家庭裁判所調査官が執筆した論文を雑誌及び書籍において公表した行為がプライバシーの侵害として不法行為法上違法とはいえないとされた事例
民法709条,民法710条
判旨
家庭裁判所調査官が少年保護事件を題材とした学術論文を専門誌等に公表した行為について、公表の目的が重要な公益を図るものであり、読者が限定され本人と同定される可能性が低い等の事情がある場合には、プライバシーを公表されない法的利益が公表する理由に優越するとはいえず、不法行為は成立しない。
問題の所在(論点)
家庭裁判所調査官が、職務上知り得た少年のプライバシー情報を学術論文として公表する行為が、不法行為法上の違法なプライバシー侵害(民法709条)に該当するか。
規範
プライバシー侵害の成否は、事実を公表されない法的利益と公表する理由を比較衡量して判断すべきである。具体的には、①情報の性質・内容、②本人の年齢・社会的地位、③公表の目的・意義、④情報の開示の必要性、⑤情報の伝達範囲と具体的被害の程度、⑥表現媒体の性質等の諸事情を総合考慮し、公表されない利益が公表する理由に優越するか否かにより決する。
重要事実
家庭裁判所調査官(被告)は、アスペルガー症候群の少年(原告)の保護事件を担当した。被告は、臨床知識の共有という学術的目的で、当該事件を題材とした論文を精神医学専門誌および書籍に掲載した(本件各公表)。論文では氏名等を伏せる配慮がなされていたが、詳細な成育歴等の記載から、事情を知る者が読めば本人と同定できる可能性があった。原告はプライバシー侵害を理由に損害賠償を請求した。
あてはめ
①情報の性質:少年法等の趣旨に鑑み、調査官が取得した情報は秘匿性が極めて高い。②本人の状況:当時19歳で改善更生への配慮が必要な地位にあった。③目的・意義:公表の目的は発達障害の理解促進という重要な公益を図るものである。④必要性:学術的な症例報告として家族歴等の記載は必要であった。⑤伝達範囲・被害:専門誌等の読者は限定されており、第三者が本人と同定し具体的被害が生じる可能性は相当に低かった。実際にも被告から告げられるまで支障は生じていなかった。⑥媒体:専門的な学術媒体である。これらを総合すると、公表されない利益が公表理由に優越するとはいえない。
結論
本件各公表が原告のプライバシーを侵害したものとして不法行為法上違法であるということはできず、請求は棄却される。
実務上の射程
学術目的の公表におけるプライバシー保護と表現の自由(学問の自由)の調整基準を示す。特に少年事件という秘匿性の高い情報であっても、同定可能性を低める配慮がなされ、専門的読者層を対象とする公益性の高い公表であれば適法となり得ることを明らかにした。
事件番号: 平成28(受)1892 / 裁判年月日: 平成29年10月23日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】顧客の氏名、住所、電話番号等の個人情報が漏洩した場合、当該個人情報はプライバシーに係る情報として法的保護の対象となるため、漏洩によって直ちにプライバシー侵害が成立し得る。この場合、迷惑行為や財産的損害の発生が認められないとしても、不快感や不安を超える精神的損害が発生しているか否か、およびその程度に…