公立小学校教師の氏名・住所・電話番号等を記載し、かつ、有害無能な教職員等の表現を用いた大量のビラを繁華街等で配布した場合において、右ビラの内容が、一般市民の間でも大きな関心事になつていた通知表の交付をめぐる混乱についての批判、論評を主題とする意見表明であつて、専ら公益を図る目的に出たものに当たらないとはいえず、その前提としている客観的事実の主要な点につき真実の証明があり、論評としての域を逸脱したものでないなど判示の事実関係の下においては、右配布行為は、名誉侵害としての違法性を欠く。
公立小学校における通知表の交付をめぐる混乱についての批判、論評を主題とするビラの配布行為が名誉侵害としての違法性を欠くとされた事例
民法709条,民法723条,刑法230条ノ2第1項,刑法230条ノ2第3項
判旨
公務員に対する批判的言論が名誉毀損に当たる場合でも、公益目的・事実の真実性が認められ、かつ人身攻撃等の論評の域を逸脱しない限り違法性を欠く。一方で、氏名・住所等の個人情報を記載したビラを配布し、私生活の平穏を害する蓋然性の高い事態を招いた場合は、別途プライバシー等の人格的利益の侵害として不法行為が成立する。
問題の所在(論点)
1. 公務員の職務執行に対する批判的表現について、名誉毀損の違法性が阻却されるか。 2. ビラに詳細な個人情報を記載して配布した行為が、名誉毀損とは別に人格的利益の侵害として不法行為を構成するか。
規範
1. 名誉毀損の違法性阻却:表現の自由(憲法21条1項)の観点から、公共の利害に関する事項について、目的が専ら公益を図るものであり、かつ前提事実が主要な点で真実であるときは、人身攻撃に及ぶなど論評の域を逸脱しない限り、違法性を欠く。 2. プライバシー・人格的利益の侵害:氏名、住所、電話番号等の個人情報をみだりに公表され、私生活の平穏を脅かされるような事態を招いた場合、その精神的苦痛が社会通念上の受忍限度を超えるときは、不法行為(民法709条)を構成する。
重要事実
公立小学校の教師である被上告人らが、通知表の評価方式を巡る争いから通知表を配布しなかった。上告人は、実体のない団体名義で「有害無能な教職員」等の激しい表現を用い、被上告人らの氏名・住所・電話番号を一覧表にしたビラを作成・配布した。これにより、被上告人らには深夜の非難電話や街宣車による氏名連呼等の嫌がらせが相次いだ。
あてはめ
1. 名誉毀損について:通知表問題は公共の利害に関する事項であり、被上告人らが通知表を交付しなかった事実は真実である。ビラに「有害無能」等の過激な表現はあるが、主題は通知表問題への批判・論評であり、人身攻撃として論評の域を逸脱したとまではいえない。よって違法性は阻却される。 2. 人格的利益の侵害について:ビラに氏名・住所・電話番号を個別的に記載して大量配布すれば、非難攻撃等の嫌がらせが発生することは予見可能であった。現実に生じた深夜電話や街宣等の被害は受忍限度を超えており、私生活の平穏という人格的利益を違法に侵害したものといえる。
結論
名誉毀損に基づく謝罪広告請求は認められないが、プライバシーおよび私生活の平穏を侵害したことによる人格的利益の侵害に基づき、慰謝料(各2万円)の支払請求のみが認められる。
実務上の射程
言論の自由とプライバシー権の競合場面で有用な判例である。表現内容自体については名誉毀損の違法性阻却を広く認める一方で、付随する個人情報の暴露等による私生活への干渉については、別の不法行為(プライバシー・人格的利益侵害)として厳格に判断する手法を示している。
事件番号: 平成6(オ)715 / 裁判年月日: 平成11年3月25日 / 結論: 棄却
宗教団体及び信仰の対象である主宰者を批判する記事が週刊誌等に掲載された場合において、信者が被ったとされる不利益の内容は、記事を自分で読むなどした結果、内心の静穏な感情を害され、不快感、不安感等を抱いたというにとどまり、また、出版社等のした行為は、本来自由な言論活動に属するものであって、信者個々人の内心の静穏な感情を害す…
事件番号: 平成9(オ)411 / 裁判年月日: 平成11年10月26日 / 結論: その他
名誉毀損の行為者において刑事第一審の判決を資料としてその認定事実と同一性のある事実を真実と信じて摘示した場合には、特段の事情がない限り、摘示した事実を真実と信ずるについて相当の理由がある。