甲学界誌において掲載の承諾を得ている外国人学者の講演内容を、乙学界誌が、本人の承諾を得ずに原判示のような不明朗な手段で、通訳から講演訳文原稿を入手した上、甲誌に先がけて掲載発表する等原判決認定のような経緯があるときは、甲誌編集者らが乙誌を非難するのに「盗載」「犯罪的不徳行為」等の言辞を用いたとしても、乙誌の名誉信用を害するものとはいえない。
他誌を誹謗する学界誌の記事につき名誉毀損の成立を否定した事例。
民法709条,民法723条
判旨
法人に対する名誉毀損が代表者個人に対する名誉毀損を構成するには、加害行為が実質的に代表者にも向けられているとの事実認定が必要である。また、他者の言動に対し、自己の正当な利益を擁護するための弁明等は、方法・内容が適当な限度を超えない限り違法性を欠く。
問題の所在(論点)
1. 法人に対する名誉毀損行為が、当然にその代表者個人に対する不法行為(名誉毀損)を構成するか。 2. 相手方の先行行為に対し、自己の権利や名誉を擁護するために行った反論・弁明行為の違法性阻却の要件。
規範
1. 法人と代表者は別人格である。したがって、法人への名誉毀損が代表者個人への名誉毀損となるには、加害行為が実質的に代表者に対しても向けられているとの事実認定を要する。単に代表者の支配力が強いことや、社会的評価が密接に関連することのみでは足りない。 2. 自己の正当な利益を擁護するためやむを得ずなされた他人の名誉毀損的言動は、先行する他人の言動と対比して、その方法・内容において適当と認められる限度を超えない限り、違法性を欠く。
重要事実
上告会社代表者Dは、E教授の講演内容を同人の承諾なく入手し、正規の掲載予定雑誌に先んじて発表した。これに対し、正規掲載権を有する被上告人らは、Dの行為を「盗載」「悪徳行為」等の激越な表現で非難した。Dは、会社への非難は社長である自身の名誉毀損にもなると主張し、損害賠償を求めて提訴した。
あてはめ
1. Dは、会社社長であることが公知である以上、会社への誹謗は直ちに自己への名誉毀損になると主張するが、加害行為がD個人に向けられていたとの事実認定はなされていない。ゆえに、別人格であるD個人の名誉侵害は認められない。 2. 被上告人らの「盗載」等の表現は激越ではあるが、E教授の承諾を得て掲載権を有する立場から、先行するDの不当な発表(不明朗な手段による原稿入手)に対し、真実を公表し自己の権利を擁護するためのものである。確定した客観的事情の下では、この反論の方法・内容は適当な限度を超えたとはいえず、違法性を欠く。
結論
D個人に対する名誉毀損は成立せず、また被上告人らの言動は正当な利益擁護の範囲内として違法性が阻却されるため、損害賠償請求は棄却される。
実務上の射程
法人と個人の名誉毀損の峻別、および「言論の応酬」における違法性阻却事由(いわゆる「正当な対抗言論」の法理に繋がる判断枠組み)として実務上重要である。特に後者は、自力救済的な側面を持ちつつも、防衛的手段としての適当性を基準とする判断枠組みを提供している。
事件番号: 昭和38(オ)1406 / 裁判年月日: 昭和41年7月28日 / 結論: 棄却
原審の確定した事実関係のもとにおいては、弁護士の法廷における証人尋問活動を対象としてソフィストの詭弁術等と批評した雑誌論文の公表をもつて、右弁護士の名誉を毀損する不法行為を構成するものとはいえない。
事件番号: 昭和34(オ)901 / 裁判年月日: 昭和39年1月28日 / 結論: 破棄差戻
法人の名誉権が侵害され、無形の損害が生じた場合でも、右損害の金銭評価が可能であるかぎり、民法第七一〇条の適用がある。