一 新聞紙に謝罪広告を掲載することを命ずる判決は、その広告の内容が単に事態の真相を告白し陳謝の意を表明する程度のものにあつては、民訴第七三三条により代替執行をなし得る。 二 右判決は憲法第一九条に反しない。
一 謝罪広告を命ずる判決と強制執行 二 右判決は憲法第一九条に反しないか
民訴法733条,民法723条,憲法19条
判旨
民法723条に基づき謝罪広告を命ずることは、単に事態の真相を告白し陳謝の意を表明する程度のものに止まる限り、憲法19条が保障する思想・良心の自由を侵害せず合憲である。このような広告は代替的作為として強制執行(代執行)も可能である。
問題の所在(論点)
民法723条に基づき、裁判所が名誉毀損の加害者に対し「謝罪広告」の掲載を命ずることは、憲法19条の保障する思想・良心の自由に違反しないか。また、その強制執行は可能か。
規範
憲法19条が保障する思想・良心の自由は絶対無制限ではない。民法723条の「名誉を回復するに適当な処分」として命じられる謝罪広告が、単に客観的事実の真相を告白し陳謝の意を表明するにとどまる程度のものであるならば、それは屈辱的・苦役的労苦を課すものではなく、また倫理的な意思や良心の自由を侵害するものともいえないため、憲法19条に反しない。
重要事実
上告人は衆議院議員選挙に際し、かつて公職にあった被上告人について無根の事実を公表し、名誉を毀損した。これに対し下級審は、名誉毀損による不法行為の成立を認め、民法723条に基づき「放送及び記事は真相に相違しており、貴下の名誉を傷つけ御迷惑をおかけいたしました。ここに陳謝の意を表します」という内容の謝罪広告を新聞紙等に掲載することを命じた。上告人は、自発的な謝罪を強制することは良心の自由を侵すと主張して上告した。
事件番号: 昭和39(テ)35 / 裁判年月日: 昭和41年4月21日 / 結論: 棄却
一 新聞紙に謝罪広告を掲載することを命ずる判決は、その広告の内容が単に事態の真相を告白し陳謝の意を表明する程度のものにあつては、憲法第一九条に違反しないことは当裁判所の大法廷の判決(昭和二八年(オ)第一二四一号同三一年七月四日大法廷判決、民集一〇巻七号七八五頁参照)の示すところであり、右のごとき判決が憲法第二一条第一項…
あてはめ
本件で命じられた謝罪広告の内容は、公表した事実が虚偽であることを認め、陳謝の意を表明するという客観的事実の広報に近いものである。これは加害者に過度な屈辱や倫理的な良心の変節を強要するものとはいえず、法が社会秩序維持のために外部的行為を求める「適当な処分」の範囲内といえる。したがって、内心の自由を直接侵害するものではない。また、このような内容の謝罪広告であれば、債務者の意思にのみ関わる不代替的作為ではなく、第三者が代わって行いうる代替的作為として民事訴訟法上の代執行の手続きによる強制執行も可能であると解される。
結論
謝罪広告の掲載命令は、本件のような内容であれば憲法19条に違反せず、民法723条にいう「適当な処分」として認められる。
実務上の射程
謝罪広告の合憲性を認めたリーディングケースである。答案上は、単なる事実の公表や陳謝を超えて、高度に倫理的な自己批判や屈辱的な告白を強いる場合には違憲の疑いが生じるという「程度の問題」として論じる。また、代替執行が可能であるとする点は、名誉毀損の救済実効性を担保する判断枠組みとして活用できる。
事件番号: 昭和28(オ)1044 / 裁判年月日: 昭和33年8月8日 / 結論: 却下
特定の新聞紙に紙面、部分、体裁、内容等を指定して謝罪広告の掲載を求める請求の訴訟物の価額は、その新聞広告掲載に要する通常の費用によつて算定すべきである。