一 氏名を正確に呼称される利益は、不法行為法上の保護を受け得る利益である。 二 昭和五〇年当時テレビ放送のニュース番組において在日韓国人の氏名をそのあらかじめ表明した意思に反して日本語読みによつて呼称した行為は、在日韓国人の氏名を日本語読みによつて呼称する慣用的な方法が是認されていた社会的な状況の下では、違法とはいえない。
一 氏名を正確に呼称される利益 二 テレビ放送のニュース番組において在日韓国人の氏名を日本語読みによつて呼称した行為が違法ではないとされた事例
民法709条,民法710条
判旨
氏名を正確に呼称される利益は、人格権の一内容として不法行為法上の保護を受けるが、他人の不正確な呼称行為は、明示的合意への反抗や害意などの特段の事情がない限り、直ちに違法とはならない。特に外国人氏名について、社会的に是認された慣用的な呼称方法を用いることは、本人の意思に反しても違法性を欠く。
問題の所在(論点)
氏名を正確に呼称される利益が、憲法13条を背景とした人格権の一内容として不法行為法上保護されるか。また、本人の意に反して外国人氏名を日本語読み(慣用的呼称)で放送する行為の違法性判断基準が問題となる。
規範
1. 氏名は個人の尊重の基礎であり人格の象徴であるから、人は氏名を正確に呼称されることについて、人格的利益(人格権)を有する。 2. もっとも、呼称の正確性を求める利益は、冒用されない利益等に比して必ずしも強固ではない。そのため、不正確な呼称が不法行為を構成するには、当該個人の明示的な意思に反してことさらに不正確な呼称をしたか、又は害意をもって不正確な呼称をしたなどの「特段の事情」を要する。 3. 外国人氏名につき、社会一般に是認された慣用的な呼称方法が存在する場合、視聴者の理解容易性という目的の下で当該方法を用いることは、本人の明示的な意思に反しても原則として違法ではない。
重要事実
韓国籍の控訴人(A)は、自身の氏名を民族語読み(D)で呼称するよう求めていた。しかし、被控訴人(放送局)は、ニュース番組において、控訴人の明示的な意思に反し、漢字表記の氏名を日本語読み(E)で呼称して放送した。これに対し控訴人が、人格権侵害に基づく謝罪広告や慰謝料請求等を求めて提訴した事案である。
あてはめ
1. 氏名は人格の象徴であり、正確な呼称を受ける利益は人格権に含まれるが、漢字の読みが複数存在する我が国の状況に照らせば、単なる誤読や慣用的な読みが直ちに違法となるわけではない。 2. 本件放送当時(昭和50年頃)、在日韓国人の氏名を日本語読みすることは、歴史的経緯や社会的状況から、社会一般の認識として是認された慣用的な方法であったといえる。 3. 被控訴人は視聴者の理解を容易にする目的でこの慣用的方法を用いたものであり、控訴人の明示的な意思に反するとしても、「ことさらに不正確な呼称をした」あるいは「害意があった」といった特段の事情は認められない。したがって、違法性は阻却される。
結論
被控訴人の行為に違法性は認められず、人格権侵害に基づく損害賠償請求及び謝罪広告請求は棄却される。
実務上の射程
人格権の具体的内容として「氏名を正確に呼称される権利」を認めたリーディングケースである。答案上は、人格権侵害の有無を論じる際の「受忍限度」や「違法性判断」の枠組みとして重要。特に、本人の主観的な意思だけでなく、社会的慣用や公共の利便性との比較衡量によって違法性を判断する手法は、他のプライバシー・人格権侵害の事案にも射程が及ぶ。
事件番号: 平成15(受)1793 / 裁判年月日: 平成16年7月15日 / 結論: 破棄自判
名誉毀損の成否が問題となっている法的な見解の表明は,判決等により裁判所が判断を示すことができる事項に係るものであっても,事実を摘示するものとはいえず,意見ないし論評の表明に当たる。