名誉毀損の成否が問題となっている法的な見解の表明は,判決等により裁判所が判断を示すことができる事項に係るものであっても,事実を摘示するものとはいえず,意見ないし論評の表明に当たる。
名誉毀損の成否が問題となっている法的な見解の表明と意見ないし論評の表明
民法709条,民法710条,刑法230条の2第1項
判旨
法的な見解の表明は、証拠等により存否を決することが可能な事実とは異なり、原則として意見ないし論評の表明に該当する。裁判所が判決等で公権的判断を示し得る事項であっても、そのことを理由に事実の摘示と解することはできない。
問題の所在(論点)
著作権侵害(違法)であるとの「法的な見解の表明」が、名誉毀損における「事実の摘示」と「意見ないし論評の表明」のいずれに該当するか。
規範
表現が、証拠等をもって存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を主張するものと理解されるときは「事実の摘示」に当たるが、物事の価値・善悪・優劣等の批評や論議は「意見ないし論評の表明」に属する。法的な見解の正当性それ自体は証明の対象とならないため、法的な見解の表明は「意見ないし論評の表明」に当たる。これが名誉毀損として違法性を有するのは、(1)公共性、(2)公益目的、(3)前提事実が重要部分で真実(または真実相当性あり)、(4)人身攻撃に及ぶなど論評の域を逸脱していない場合を除いたときに限られる。
重要事実
漫画家のA1(上告人)は、研究者である被上告人がA1の漫画カットを無断で著作に採録したことに対し、自著の漫画内で「ドロボー」「ドロボー本」と記述し、泥棒姿の似顔絵を描くなどして、本件採録が著作権侵害で違法であるとの見解を表明した。被上告人はこれが名誉毀損に当たるとして損害賠償等を請求した。原審は、著作権侵害の有無は裁判所が公権的に判断し得る事項であるから「事実の摘示」に当たるとし、別件訴訟で侵害が否定されたことを受けて違法性を認めた。
あてはめ
本件各表現は、無断採録という事実を前提に、それが「著作権侵害で違法である」との法的評価を述べたものであり、意見ないし論評の表明に当たる。本件は公共性・公益目的が認められ、前提となる無断採録の事実は真実である。表現態様についても、相手方の主張を正確に引用した上での反論であり、相手方自身もA1を厳しく批判・揶揄していた諸事情に照らせば、人身攻撃に及ぶような論評の域を逸脱したものとはいえない。
結論
本件表現は意見ないし論評の表明として違法性を欠き、名誉毀損は成立しない。原判決を破棄し、被上告人の請求を棄却する。
実務上の射程
「裁判で決着がつくこと(法的評価)」と「証拠で存否が決まること(事実)」を明確に区別した。法的評価が絡む名誉毀損事案において、被告側が「意見・論評」の枠組みで争う際の強力な根拠となる。答案上は、まず事実摘示か意見表明かを判別し、本判例を引用して「法的評価は意見・論評」であると導く使い方が想定される。
事件番号: 昭和34(オ)1019 / 裁判年月日: 昭和38年4月16日 / 結論: 棄却
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