1 テレビジョン放送をされた報道番組の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについては,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断すべきである。 2 テレビジョン放送をされた報道番組によって摘示された事実がどのようなものであるかについては,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準とし,その番組の全体的な構成,これに登場した者の発言の内容,画面に表示された文字情報の内容を重視し,映像及び音声に係る情報の内容並びに放送内容全体から受ける印象等を総合的に考慮して判断すべきである。 3 テレビジョン放送をされた報道番組において,乙市産の野菜のダイオキシン類汚染に関し,丙研究所の調査結果によれば乙市産の野菜のダイオキシン類濃度が1g当たり0.64〜3.80ピコグラムである旨記載されたフリップが示され,その野菜がほうれん草をメインとする乙市産の葉っぱ物であるとの説明がされたなど判示の事実関係の下では,その番組により摘示された事実の重要な部分は,ほうれん草を中心とする乙市産の葉物野菜が全般的にダイオキシン類による高濃度の汚染状態にあり,その測定値が上記数値で示される高い水準にあることとみるべきであり,別の調査結果において乙市産のラベルが付けられた白菜1検体から上記最高値に比較的近似した測定値が得られたことなどをもって,上記摘示された事実の重要な部分について真実であることの証明があるとはいえない。 (3につき補足意見がある。)
1 テレビジョン放送をされた報道番組の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについての判断基準 2 テレビジョン放送をされた報道番組によって摘示された事実がどのようなものであるかについての判断基準 3 テレビジョン放送をされた報道番組によって摘示された特定産地の野菜のダイオキシン類汚染に関する事実についてその重要な部分が真実であることの証明があるとはいえないとされた事例
民法709条,民法710条,刑法230条の2第1項
判旨
テレビ報道による名誉毀損の成否において、摘示事実の内容は一般視聴者の普通の注意と視聴の仕方を基準に、映像や音声、全体から受ける印象等を総合考慮して判断すべきである。本件では、高濃度の数値が実際には「茶」のものであっても、番組の構成上「葉物野菜」全般の数値と受け取られる場合は、その点を含めて真実性を判断すべきとした。
問題の所在(論点)
テレビ報道における「摘示事実」の確定基準、および「重要な部分」の真実性の有無(特に、異なる品目の数値を野菜全般の数値として報じた場合の真実性証明の可否)。
規範
1. 報道内容が人の社会的評価を低下させるか否か、およびどのような事実を摘示したかは、一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方(音声・映像による情報の瞬時理解)を基準とする。2. その際、発言内容や文字情報(フリップ等)のみならず、映像、効果音、ナレーション、放送全体から受ける印象等を総合的に考慮する。3. 公共性・公益目的がある場合、摘示事実の重要な部分について真実である証明(または真実と信じる相当な理由)があれば違法性が阻却される。
重要事実
テレビ局(被上告人)は、所沢産野菜のダイオキシン汚染を特集し、フリップで「野菜のダイオキシン濃度:0.64〜3.80pgTEQ」と表示して放送した。しかし、最大値の3.80は「せん茶」の数値であり、ほうれん草等の野菜の数値ではなかった。所沢産の農家(上告人)らは、この放送により野菜の安全性が疑われ社会的評価が低下したとして損害賠償等を求めた。原審は、別調査で白菜から3.4pgTEQが検出されており、数値自体は野菜としても真実である等として請求を棄却した。
あてはめ
1. 本件放送では「ほうれん草をメインとする葉っぱ物」を主眼とし、その最大値として「3.80」を提示していた。一般視聴者は、この数値を「ほうれん草等」の数値と理解するため、摘示事実は「所沢産の葉物野菜が全般的に3.80に達する高濃度汚染状態にある」ことと解される。2. 実際には3.80は「せん茶」の数値であり、除外した野菜の数値は最大でも0.753に過ぎない。放送が引用していない他者の調査(白菜1検体)をもって、放送内容が真実であるとみることはできない。3. 視聴者が受ける「最大値」の強い印象を鑑みれば、品目の取り違えは些細な点とはいえず、摘示事実の重要な部分について真実性の証明があるとはいえない。
結論
本件放送による名誉毀損の違法性阻却を認めた原審の判断には法令違反がある。摘示事実の特定が不適切であり、重要な部分について真実性の証明があったとはいえないため、原判決を破棄し差し戻す。
実務上の射程
テレビ報道特有の「情報の瞬時性・非反復性」に着目し、視聴者の印象を重視して摘示事実を認定した点に射程がある。答案では、新聞(精読可能)とテレビ(受動的視聴)の差異を意識し、事実摘示の認定段階で、テロップや映像効果が一般視聴者に与える心理的影響を具体的に論じる際の根拠となる。
事件番号: 昭和34(オ)1019 / 裁判年月日: 昭和38年4月16日 / 結論: 棄却
甲学界誌において掲載の承諾を得ている外国人学者の講演内容を、乙学界誌が、本人の承諾を得ずに原判示のような不明朗な手段で、通訳から講演訳文原稿を入手した上、甲誌に先がけて掲載発表する等原判決認定のような経緯があるときは、甲誌編集者らが乙誌を非難するのに「盗載」「犯罪的不徳行為」等の言辞を用いたとしても、乙誌の名誉信用を害…
事件番号: 昭和38(オ)1406 / 裁判年月日: 昭和41年7月28日 / 結論: 棄却
原審の確定した事実関係のもとにおいては、弁護士の法廷における証人尋問活動を対象としてソフィストの詭弁術等と批評した雑誌論文の公表をもつて、右弁護士の名誉を毀損する不法行為を構成するものとはいえない。