法人の名誉権が侵害され、無形の損害が生じた場合でも、右損害の金銭評価が可能であるかぎり、民法第七一〇条の適用がある。
民法第七一〇条は法人の名誉権侵害による無形の損害に適用があるか。
民法710条,民法723条
判旨
法人は精神的苦痛を感じ得ないが、名誉権侵害によって生じる「無形の損害」は精神的苦痛に限られない。したがって、法人が名誉毀損を受けた場合、民法710条に基づき、金銭評価が可能な無形の損害について賠償を請求することができる。
問題の所在(論点)
法人が名誉毀損を理由として、民法710条に基づき精神的苦痛以外の「無形の損害」に対する金銭賠償を請求することができるか。法人の権利能力と損害概念の範囲が問題となる。
規範
民法710条の「財産以外の損害」は、精神的苦痛による慰謝料のみを指すのではなく、すべての無形の損害を意味する。損害とは、侵害行為がなかったならば存在したであろう状態と現状との差額の金銭的評価であり、数理的に算定できない無形の損害であっても、侵害の程度や当事者の社会的環境等を斟酌して金銭評価が可能であり、社会観念上至当と認められる場合は、賠償の対象となる。
重要事実
医療を目的とする法人である上告人が、被上告人による名誉毀損行為を受け、それによって生じた財産上の損害ではない「無形の損害」に対する金銭賠償を求めた事案。原審は、法人は精神的苦痛を感受し得ないため、名誉毀損による損害賠償は財産的損害(有形の損害)に限られるとして、上告人の請求を棄却した。
あてはめ
民事責任の本旨は損害の填補にあり、被害者が自然人か法人か、あるいは損害の内容が精神的苦痛か否かを問わず、侵害によって生じた不利益(損害)は金銭的にカバーされるべきである。法人の名誉侵害においては、民法723条が謝罪広告等の特別な救済手段を定めているが、これは一応の手段に過ぎず、同条の存在が金銭賠償を否定する根拠にはならない。したがって、社会通念上、金銭評価が可能で賠償が至当と認められる「無形の損害」が発生している場合には、法人であってもその賠償を請求し得る。
結論
法人は名誉毀損による無形の損害に対しても金銭賠償を請求できる。原審が「法人には無形の損害が発生する余地がない」として請求を棄却したのは違法であり、破棄差し戻しを免れない。
実務上の射程
法人の名誉毀損に関するリーディングケースである。答案上は、法人の人権(権利能力)の文脈、または不法行為法上の損害概念の広がりを示す論拠として活用する。実務的には、企業のブランド価値毀損など、直接的な売上減少(財産的損害)の立証が困難な場面での損害認定の根拠となる。
事件番号: 昭和28(オ)1044 / 裁判年月日: 昭和33年8月8日 / 結論: 却下
特定の新聞紙に紙面、部分、体裁、内容等を指定して謝罪広告の掲載を求める請求の訴訟物の価額は、その新聞広告掲載に要する通常の費用によつて算定すべきである。
事件番号: 昭和37(オ)1001 / 裁判年月日: 昭和38年2月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】他者を侮辱する言動が不法行為(民法709条)を構成する場合、被害者の言動等の諸事情を斟酌して慰謝料額を算定することが認められる。また、具体的な侮辱行為が権利侵害に当たるとした原審の判断は、特段の事情がない限り正当として維持される。 第1 事案の概要:上告人(控訴人)が被上告人(被控訴人)に対し、原…