宗教団体及び信仰の対象である主宰者を批判する記事が週刊誌等に掲載された場合において、信者が被ったとされる不利益の内容は、記事を自分で読むなどした結果、内心の静穏な感情を害され、不快感、不安感等を抱いたというにとどまり、また、出版社等のした行為は、本来自由な言論活動に属するものであって、信者個々人の内心の静穏な感情を害する意図、目的でされたものともいえないなど判示の事情の下においては、出版社等は、信者個々人に対し、心の静穏を乱したことを理由とする不法行為責任を負わない。
宗教団体等を批判する記事が週刊誌等に掲載された場合において出版社等は信者個々人に対して心の静穏を乱したことを理由とする不法行為責任を負わないとされた事例
民法709条,民法710条
判旨
自己の欲しない他者の言動によって心の静穏を乱されないという利益は、社会通念上の受忍限度を超え、かつ侵害の態様・程度が社会的に許容できる限度を超える場合に限り、不法行為法上の保護を受ける。
問題の所在(論点)
自己の帰依する宗教団体等に対する批判記事によって「心の静穏を乱されない利益」が侵害された場合、不法行為(民法709条)が成立するか。いわゆる「静穏権」の法的保護の要件が問題となる。
規範
人は、自己の欲しない他者の言動によって心の静穏を乱されないという利益を有する。もっとも、他者の言論や社会的活動も尊重されるべきであるから、一定の限度はこれを甘受すべきである。したがって、①社会通念上その限度(受忍限度)を超えて内心の静穏な感情が害され、かつ、②その侵害の態様、程度が内心の静穏な感情に対する介入として社会的に許容できる限度を超える場合に初めて、当該利益が法的に保護され、不法行為(民法709条)が成立する。
重要事実
週刊誌等の出版社らが、特定の宗教団体及びその信仰対象である主宰者を批判・誹謗中傷する一連の記事を掲載した。これに対し、同団体に帰依する信者である上告人らが、宗教上の領域における心の静穏を乱されないという利益を侵害され精神的苦痛を被ったとして、損害賠償を求めた事案である。
あてはめ
本件における不利益の内容は、記事を読み、あるいは周囲から批判を聞かされることで不快感や不安感を抱いたという点に留まる。一方で、侵害行為は週刊誌等による批判記事の掲載という本来自由な言論活動に属するものである。また、記事が上告人ら個々人の内心の静穏を害する意図・目的で掲載された事実はうかがわれない。そうであれば、本件記事の掲載は、上告人らの内心の静穏な感情に対する介入として社会的に許容できる限度を超えたものとは評価できず、受忍限度の範囲内というべきである。
結論
本件記事の掲載等が上告人らの主張する法的利益を違法に侵害したとは認められず、不法行為は成立しない。
実務上の射程
プライバシーや名誉毀損とは別に、「平穏に生活する利益(静穏権)」の侵害を主張する場合の一般的枠組みとして機能する。特に宗教的感情や静かな生活環境の侵害が問題となる場面で、表現の自由等の対抗利益との比較衡量において「受忍限度論」を用いる際の指標となる。
事件番号: 平成21(受)1905 / 裁判年月日: 平成23年7月15日 / 結論: その他
弁護士であるテレビ番組の出演者において,特定の刑事事件の弁護団の弁護活動が懲戒事由に当たるとして,上記弁護団を構成する弁護士らについて懲戒請求をするよう視聴者に呼び掛けた行為は,次の(1)〜(5)など判示の事情の下においては,上記弁護士らについて多数の懲戒請求がされたとしても,これによって上記弁護士らの被った精神的苦痛…