弁護士であるテレビ番組の出演者において,特定の刑事事件の弁護団の弁護活動が懲戒事由に当たるとして,上記弁護団を構成する弁護士らについて懲戒請求をするよう視聴者に呼び掛けた行為は,次の(1)〜(5)など判示の事情の下においては,上記弁護士らについて多数の懲戒請求がされたとしても,これによって上記弁護士らの被った精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を超えるとまではいえず,不法行為法上違法なものであるということはできない。 (1) 上記行為は,娯楽性の高いテレビのトーク番組における出演者同士のやり取りの中でされた表現行為の一環といえる。 (2) 上記行為の趣旨とするところは,懲戒請求は広く何人にも認められるとされていることなどを踏まえ,視聴者においても上記弁護活動が許せないと思うのであれば懲戒請求をしてもらいたいとして,視聴者自身の判断に基づく行動を促すものであり,その態様も,視聴者の主体的な判断を妨げて懲戒請求をさせ,強引に懲戒処分を勝ち取るという運動を唱導するようなものとはいえない。 (3) 上記弁護士らは,社会の耳目を集める刑事事件の弁護人であって,その弁護活動の当否につき国民による様々な批判を受けることはやむを得ないものといえる。 (4) 上記懲戒請求が多数されたについては,多くの視聴者等が上記出演者の発言に共感したことや,上記出演者の関与なくしてインターネット上のウェブサイトに掲載された書式を使用して容易に懲戒請求をすることができたことが大きく寄与している。 (5) 上記懲戒請求は,ほぼ同一の事実を懲戒事由とするもので,弁護士会の綱紀委員会による事案の調査も一括して行われ,上記弁護士らもこれに一括して反論をすることができ,同弁護士会の懲戒委員会における事案の審査は行われなかった。 (補足意見がある。)
弁護士であるテレビ番組の出演者において特定の刑事事件の弁護団の弁護活動が懲戒事由に当たるとして上記弁護団を構成する弁護士らについて懲戒請求をするよう視聴者に呼び掛けた行為が,不法行為法上違法とはいえないとされた事例
民法709条,弁護士法58条1項
判旨
弁護士がテレビ番組で他の弁護士の刑事弁護活動を批判し、視聴者に懲戒請求を呼び掛けた行為は、その態様や趣旨、対象者の社会的立場等を総合考慮し、被った苦痛が社会通念上の受忍限度を超えない限り、直ちに不法行為法上の違法性を有するとはいえない。
問題の所在(論点)
テレビ番組における懲戒請求の呼び掛け行為が、名誉毀損とは別個に、受忍限度を超える人格的利益の侵害として不法行為(民法709条)を構成するか。
規範
名誉毀損とは別個の不法行為の成否については、表現行為の態様、発言の趣旨、被害者の社会的立場、当該行為により被害者が負うこととなった負担の程度等を総合考慮し、被害者の被った精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を超えたか否かによって判断する。特に弁護士への懲戒請求については、弁護士法58条1項が何人にも請求権を認めている趣旨に照らし、その勧奨行為が直ちに違法となるわけではない。
重要事実
大阪弁護士会所属の弁護士である被告は、テレビ番組において、光市母子殺害事件の弁護団(原告ら)が主張した被告人の殺意否認等の内容を批判し、「許せないと思うなら一斉に弁護士会に懲戒請求をかけてもらいたい」等の発言(本件呼び掛け行為)を行った。これを受け、原告らに対し各600件を超える大量の懲戒請求がなされた。原告らは、被告の呼び掛け行為により精神的苦痛を受け、反論準備等の負担を強いられたとして不法行為に基づく損害賠償を求めた。
あてはめ
被告は刑事弁護の本質に関する重要な情報を直接知る立場になく、その呼び掛けは軽率で措辞も不適切であった。しかし、本件は娯楽性の高い番組内での表現行為であり、視聴者自身の判断に基づく行動を促す性質のものである。また、原告らは社会の耳目を集める事件の弁護人として批判を受けることは避けられない立場にあり、大量の懲戒請求への対応も、ほぼ同一内容の書式が用いられていたため一括反論が可能であって、業務に多大な支障が生じたとまではいえない。これらを総合すれば、原告らの精神的苦痛は受忍限度を超えるとまではいえない。
結論
被告の本件呼び掛け行為は、不法行為法上違法なものであるということはできず、原告らの請求を棄却する。
実務上の射程
弁護士の業務に対する批判や懲戒請求の勧奨が不法行為となるかの判断枠組みを示した。名誉毀損の抗弁(真実性等)とは別に、受忍限度論による違法性評価を行う実務上の指針となる。特に「数の圧力」を背景とした懲戒請求の扇動であっても、対象者の受忍限度の範囲内であれば適法とされる可能性を示している。
事件番号: 平成17(受)2126 / 裁判年月日: 平成19年4月24日 / 結論: その他
弁護士法58条1項に基づく懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠く場合において,請求者が,そのことを知りながら又は通常人であれば普通の注意を払うことによりそのことを知り得たのに,あえて懲戒を請求するなど,懲戒請求が弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らし相当性を欠くと認められるときには,違法な懲戒請求として不法行為を構成する。 …