1 監獄法46条2項は,具体的事情の下で,受刑者のその親族でない者との間の信書の発受を許すことにより監獄内の規律及び秩序の維持,受刑者の身柄の確保,受刑者の改善,更生の点において放置することのできない程度の障害が生ずる相当のがい然性があると認められるときに限り,この障害の発生防止のために必要かつ合理的な範囲においてのみ上記信書の発受の制限が許されることを定めたものとして,憲法21条,14条1項に違反しない。 2 刑務所長が受刑者の新聞社あての信書の発信を不許可としたことは,刑務所長が,具体的事情の下で,上記信書の発信を許すことにより刑務所内の規律及び秩序の維持,受刑者の身柄の確保,受刑者の改善,更生の点において放置することのできない程度の障害が生ずる相当のがい然性があるかどうかについて考慮していないこと,上記信書が,国会議員に対して送付済みの請願書等の取材等を求める旨の内容を記載したものであり,その発信を許すことによって刑務所内に上記の障害が生ずる相当のがい然性があるということができないことなど判示の事情の下においては,裁量権の範囲を逸脱し,又は裁量権を濫用したものとして,国家賠償法1条1項の適用上違法となる。
1 監獄法46条2項と憲法21条,14条1項 2 刑務所長が受刑者の新聞社あての信書の発信を不許可としたことが国家賠償法1条1項の適用上違法となるとされた事例
(1,2につき) 監獄法46条2項 (1につき) 憲法14条1項,憲法21条 (2につき) 国家賠償法1条1項
判旨
受刑者の親族以外への信書発信制限は、監獄内の秩序維持等に「放置することのできない程度の障害が生ずる相当のがい然性」がある場合に限り、必要かつ合理的な範囲で許される。この考慮を欠いた不許可処分は、裁量権の逸脱・濫用として違法であり、国家賠償法上の責任を負う。
問題の所在(論点)
監獄法46条2項に基づく、受刑者の親族以外の者に対する信書発信の制限が許される要件、および本件不許可処分の違法性。
規範
受刑者の親族以外との信書発受は、受刑者の性向、監獄内の状況、信書内容等の具体的事情の下で、これを許すことにより、監獄内の規律・秩序維持、受刑者の身柄確保、改善更生の点において「放置することのできない程度の障害が生ずる相当のがい然性」があると認められる場合に限り、必要かつ合理的な範囲で制限できる。監獄法46条2項はこの要件・範囲でのみ制限を許容したものと解すべきである。
重要事実
懲役刑に服していた上告人は、受刑者処遇改善を求める請願書等の取材・報道を依頼するため、新聞社宛の信書(本件信書)の発信許可を求めた。しかし、熊本刑務所長は、親族外の信書は「特に必要がある場合」に限り許されるとの解釈の下、権利救済等の必要性が認められないとして不許可処分を行った。上告人は、この不許可が違法であるとして国家賠償請求を提起した。
あてはめ
刑務所長は、本件信書の発信により規律・秩序維持等に障害が生ずる相当のがい然性があるか否かを全く考慮せず、単に「特に必要がない」という理由で不許可としており、判断枠組みの前提を誤っている。また、信書の内容は既に送付済みの請願書等の取材依頼であり、これを許すことで上記障害が生ずる相当のがい然性があるとは到底認められない。したがって、本件処分は裁量権を逸脱・濫用したものであり、国家賠償法1条1項の適用上も違法である。また、上記検討を欠いた点に過失も認められる。
結論
本件不許可処分は違法であり、被上告人(国)は上告人に対し、精神的苦痛に対する慰謝料1万円を支払う義務を負う。
実務上の射程
受刑者の基本的人権(表現の自由)を制約する行政処分における裁量権の限界を示した重要判例である。答案上では「相当のがい然性」という厳格な基準を用いつつ、行政庁がこの基準を捨象して判断した場合には直ちに裁量権の逸脱・濫用が認められ得るという論理展開に活用できる。
事件番号: 昭和57(オ)202 / 裁判年月日: 昭和60年12月13日 / 結論: 破棄差戻
受刑者に対する差入が差入人と受刑者との関係が明らかでないため受刑者の処遇上害があるか否か不明である場合は、刑務所長は、その裁量により、右差入の許否を決することができる。