死刑確定者において許可を受けずにした吸取紙及び便箋つづりの台紙に書き込みをする行為並びに封筒を半分に切断する行為が,拘置所長が定めた許可なく便箋等以外の物への書き込み又は物品の加工等をしてはならない旨の遵守事項に違反するとして,同所長等がした指導,懲罰等の措置は,当該遵守事項は刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律74条2項8号に掲げる金品の不正な使用等の禁止のための規制として刑事施設の規律及び秩序を適正に維持するため必要かつ合理的な範囲にとどまるものといえること,上記各行為が遵守事項に違反することを前提にされた当該措置に不合理な点があったとはいえないことなど判示の事情の下においては,国家賠償法1条1項の適用上違法であるとはいえない。
死刑確定者において許可を受けずにした吸取紙への書き込み等の行為が遵守事項に違反するとして拘置所長等がした指導,懲罰等の措置が国家賠償法1条1項の適用上違法であるとはいえないとされた事例
刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律73条,刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律74条1項,刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律74条2項8号,国家賠償法1条1項
判旨
刑事収容施設法74条に基づき拘置所長が定める遵守事項において、一定の物品加工や書き込みに事前許可を要するとすることは、施設の規律・秩序維持のために必要かつ合理的な範囲内であり、所長の合理的な裁量の範囲内として適法である。
問題の所在(論点)
刑事収容施設法74条2項8号が「不正な使用」等の禁止を定めているのに対し、拘置所長が「許可のない加工・書き込み」を一律に禁止する遵守事項を定めることが、同法の委任の範囲を超え、裁量を逸脱して違法となるか。また、それを前提とした懲罰等の措置の適法性。
規範
刑事収容施設法74条2項各号は遵守事項の策定基準を概括的に列挙したものであり、具体的内容の決定は、刑事施設の規律及び秩序を適正に維持するために必要な限度を超えない限り、刑事施設の長の合理的な裁量に委ねられる。同項8号にいう「不正」とは、施設の規律・秩序を害するおそれの有無という観点から判断すべきであり、事後的な規制では実効性の確保が困難な行為について、事前許可制を敷き、個別に不正の有無を判断する仕組みを設けることは、必要かつ合理的な範囲内の規制として裁量権の範囲内にある。
重要事実
死刑確定者として名古屋拘置所に収容されているXは、居室において、(1)便箋の吸取紙への書き込み、(2)封筒の切断加工、(3)便箋つづりの台紙への書き込みを行った。名古屋拘置所の遵守事項では、許可なく物品を加工すること(20項)や許可された用紙以外に書き込むこと(26項)が禁止されていた。拘置所長らは、これらの行為が遵守事項に違反するとして、Xに対し廃棄指導、戒告、閉居5日の懲罰等の各措置を講じたため、Xが国家賠償請求を提起した。
あてはめ
被収容者による物品加工や便箋以外への書き込みは、不正連絡等の規律違反に利用される蓋然性がある。これらを一律に事前許可の対象とすることは、所長が事前に不正の有無を個別判断することを可能にし、職員にとっても許可の有無という明確な基準による運用を可能にする。また、これらの行為は事前に許可を求めることが困難な性質のものではない。したがって、死刑確定者に対しても、本件遵守事項は規律・秩序維持のため必要かつ合理的な範囲に留まる。本件各行為は当該遵守事項に違反する「懲罰を科せられるべき行為(同法150条1項)」に該当し、これに対する指導・懲罰等の措置に不合理な点は認められない。
結論
本件遵守事項は所長の裁量権の範囲内で定められた適法なものであり、これに違反したXに対する指導・懲罰等の各措置は、国家賠償法1条1項の適用上、違法ではない。
実務上の射程
刑事収容施設における遵守事項の適法性を審査する際、施設側の広範な裁量を認める枠組みとして活用できる。特に「不正」の定義を規律・秩序維持の観点から広めに解し、管理の便宜や実効性の観点から事前許可制を正当化した点に特徴がある。答案上は、施設の規律維持の必要性と被収容者の制限される利益を比較衡量する際の重要な判断指針となる。
事件番号: 平成10(オ)642 / 裁判年月日: 平成15年9月5日 / 結論: 棄却
在監者の信書の発受に関する制限を定めた監獄法50条,監獄法施行規則130条の規定は,憲法21条,34条,37条3項に違反しない。