受刑者に対する差入が差入人と受刑者との関係が明らかでないため受刑者の処遇上害があるか否か不明である場合は、刑務所長は、その裁量により、右差入の許否を決することができる。
差入人と受刑者との関係が明らかでない場合と差入の許否に関する刑務所長の裁量権
監獄法53条,監獄法施行規則142条,監獄法施行規則143条,監獄法施行規則146条
判旨
受刑者への物品差入の許否は、法令に明文の不許可事由がある場合を除き、刑務所長の裁量に委ねられる。差入人と受刑者の人的関係が不明で処遇上の弊害の有無が判断できない場合、所長はその裁量により差入を拒否することが可能である。
問題の所在(論点)
旧監獄法53条1項および同法施行規則の下において、差入人と受刑者の人的関係が不明であり、差入が受刑者の処遇に及ぼす弊害が確定できない場合に、刑務所長が差入を不許可とすることができるか。すなわち、差入の許否に関する刑務所長の裁量の有無と範囲が問題となる。
規範
監獄法53条1項および同法施行規則の規定に照らせば、受刑者への物品差入の許否は、規則に明文で定める不許可事由に該当する場合を除き、刑務所長の裁量に委ねられている。この裁量の根拠は、懲役刑が社会隔離による改善更生を目的とすること、物品が予測を超えた用途に利用される危険性があること、および刑務所における紀律保持の必要性に求められる。したがって、所長は、目的物の性質、形状、内容、差入人と受刑者との人的関係等の諸般の事情を考慮して、その裁量により許否を決することができる。
重要事実
府中刑務所に収容されていた受刑者に対し、外部の者が図書の差入を求めたが、刑務所長はこれを不許可とした。原審は、施行規則146条2項が「処遇上害があると認めるとき」に不許可とすべき旨を定めていることを根拠に、人的関係が不明で害があるか否か確定できない場合にまで不許可にすることは同条の解釈に誤りがあるとして、所長の処分を違法と判断した。
あてはめ
本件において、施行規則146条2項は「害があると認められる場合」の不許可を定めたものにすぎず、人的関係が不明で害の有無が判断できない場合に許可を強制する趣旨ではない。刑務所という集団管理施設において、特定の者からの差入は受刑者に一定の影響を与える性質を有しており、管理運営上、人的関係の把握は不可欠である。したがって、差入人と受刑者の関係が明らかでない以上、処遇上の害が不明であるとして差入を認めない判断をすることは、刑務所長に与えられた裁量権の行使として許容される。原審が裁量の余地を否定して直ちに違法とした点は、法53条1項等の解釈を誤ったものである。
結論
刑務所長は、差入人と受刑者の人的関係が不明な場合には、その裁量により差入を不許可とすることができる。本件不許可処分が裁量権の範囲を逸脱・濫用したものであるか否かを審理させるため、原判決を破棄し差し戻す。
実務上の射程
本判決は、受刑者の外部交通(物品差入)に関する監獄当局の広範な裁量を認めたものである。現行の刑事収容施設法下でも同様の理が働き得るが、憲法上の表現の自由や知る権利が関わる図書差入については、本判決が前提とする「裁量」も無制限ではなく、具体的な弊害の蓋然性に基づく必要がある。答案上は、行政庁の専門的・技術的判断に基づく裁量を肯定する文脈で使用しつつ、裁量権の逸脱・濫用の有無(事実誤認や比例原則違反)を検討する枠組みとして活用する。
事件番号: 平成3(オ)804 / 裁判年月日: 平成5年9月10日 / 結論: 棄却
受刑者の改善、更生という懲役刑の目的が阻害されることを理由として、現在の監獄の管理体制の糾弾を主たる目的とする図書の受刑者の閲読を不許可とする処分は、憲法一三条、一九条、二一条に違反しない。